りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

密会

密会 (新潮クレスト・ブックス)

密会 (新潮クレスト・ブックス)

★★★★★

早朝のオフィスで、カフェの定席で、離婚した彼女の部屋で、寸暇の密会を重ねる中年男女の愛の逡巡…表題作。孤独な未亡人と、文学作品を通じて心を通わせた図書館員。ある日法外な財産を彼女が自分に遺したことを知って…「グレイリスの遺産」。過って母親の浮気相手を殺してしまった幼い自分のために、全てを捨てて親娘三人の放浪生活を選んだ両親との日々…「孤独」。アイルランドとイギリスを舞台に、執着し、苦悩し、諦め、立て直していく男たち女たち。現役の英語圏最高の短篇作家と称される、W.トレヴァーが、静かなまなざしで人生の苦さ、深みを描いた12篇。

再読。以前読んだときは、想像していたのより苦い物語が多くてなんかぽかーんだったのだ。
人間は結局のところ一人なんだなということと、人生に特別な贈り物のようなことは起こらないんだなということ。だからといって不幸なわけではないし…だからこそ些細な出来事や短い間でも心を通わせられたことの幸せが、人生を輝かせるのかもしれない。

トレヴァーの筆致があまりに淡々としていて冷たいように感じてしまうが、読み終わった時なぜか少し救われた気持ちになっている。
表題作が心に沁みた。苦いけれど苦いだけじゃない。離れてしまったあとでも愛は残ったのだったらよかった…。
やっぱりトレヴァーはいい。