りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

サラバ!

サラバ! 上

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サラバ! 下

サラバ! 下

★★★★★

西加奈子作家生活10周年記念作品

1977年5月、圷歩は、イランで生まれた。
父の海外赴任先だ。チャーミングな母、変わり者の姉も一緒だった。
イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。
後の人生に大きな影響を与える、ある出来事が待ち受けている事も知らずに――。

面白かった!私の大好きな「漁港の肉子ちゃん」に比べると爽快な話ではないけれど、西さんの全てを注ぎ込んだ作品という感じがする。
物語中に小説の名前が幾つも出てくるのだが、この作品は西加奈子版「ホテル・ニューハンプシャー」なのだと思った。

海外赴任の多い父の仕事の関係で、主人公の歩はイランで生まれる。
そして歩が小学4年生の時、家族はエジプトに暮らすことになる。
母の愛に飢え常にエキセントリックな行動をとりつづける姉。家族より「自分」の母。母に頭が上がらず気配を消す父。そんな家族の中で空気を読み「いい子」を演じる主人公歩。

なんて勝手な家族なんだ!と思うけど、それはあくまでも歩の目線で見てるからでもある。
子ども時代は確かに親の配下にあってその影響を受けずに生きていくことは不可能なわけで、それがその人の人格や価値観を作り上げていくことは間違いないのだけれど、しかしいつかは家族という殻を破って生きていかなければならない。
他人からどう見られるかを敏感に察知してそこに比重を置いて生きると、黄金の子ども時代を過ごせるけど大人になって煮詰まるのかもしれないなぁ。

決して共感できる主人公ではないけれど、ようやく家族の殻を捨てて歩き始める歩に、がんばれよ〜という気持ちでいっぱいだ。
笑ったり泣いたりしながら楽しく読み終えた。やっぱり西さんはいい!