りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

パノララ

パノララ

パノララ

★★★★★

二八歳の田中真紀子は、友人のイチローから誘われ、彼の家に間借りすることになった。その家は建て増しを重ねた奇妙な家で、コンクリート三階建ての本館、黄色い木造の二階建て、鉄骨ガレージの三棟が無理やり接合されていた。真紀子はガレージの上にある赤い小屋に住むことに。イチロー父は全裸で現れるし、女優の母、無職の姉、モテ系女子の妹も一癖ある人ばかり。そんなある日、イチローは、自分はおなじ一日が二回繰り返されることがあると真紀子に打ち明けるのだった。芥川賞作家が放つ、新感覚パノラマワールド!

主人公の真紀子は友人のイチローに誘われて彼の家に間借りする。
イチローの父親が増築を重ねる家はヘンテコだけれどなんだかちょっと楽しくて、そこに住むイチロー一家も女優の母、母にベタ惚れの父、引きこもりの長女、ふわふわと可愛らしいが毒のある妹、となんだかフツウじゃない人たち。
一家の食事に誘われて一緒に食べたり、母の映画の打ち上げに誘われたり、妹と一緒に映画のワークショップに参加したり。
イチロー一家に巻き込まれて停滞していた真紀子の生活が少し動き出す。

嫌われることを恐れて何に対しても適当にうなづくことしかしない真紀子は、実は母親からものすごい束縛を受けてきている。
自由なイチロー一家との生活でその呪縛から逃れられそうになるのだが…。

面白いけど怖かった。
私たちの生活ってこれ以上のことがあったら壊れるっていうギリギリのところでどうにか均衡を保っているのかもしれない。
自分の人生の不満を娘にぶつけてくる母も、家庭のイライラをぶつけてくる職場の先輩も、新興宗教のような映画サークルも…。
一線をこえて暴力に走るようになった束縛男のように、これ以上やられたらもう無理!っていうところでふっと終わるのが妙にリアル。

真紀子とイチロー一家とは微妙な距離のあるかかわり合いだけれど、出逢えたことでお互いに救いになれたのだと思う。

ものすごくリアルな中に紛れ込む摩訶不思議な出来事。
これが柴崎ワールドか。なんかクセになる。