りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

眠れる美女

眠れる美女 (新潮文庫)

眠れる美女 (新潮文庫)

★★★★★

波の音高い海辺の宿は、すでに男ではなくなった老人たちのための逸楽の館であった。真紅のビロードのカーテンをめぐらせた一室に、前後不覚に眠らされた裸形の若い女―その傍らで一夜を過す老人の眠は、みずみずしい娘の肉体を透して、訪れつつある死の相を凝視している。熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の名作『眠れる美女』のほか二編。

マルケスの「わが悲しき娼婦たちの思い出」がこの物語にインスパイアされて書かれたとあったので読んでみた。
マルケスの方にはユーモアとアクティヴさ(笑)があったけれど、こちらはユーモアも動きもなくて、じっとりと非常に濃密だ。

真紅のビロードのカーテンをめぐらせた一室に薬で眠らされている若い女。
裸で眠る彼女の傍らで一夜を過ごす老人。
すでに男ではなくなったということが「免罪符」になり、さらに女が何をしても決して起きないということが「約束」となる。

生娘にしか見えない少女、すでに色気が匂い立つような少女、幼子と言ってもいいくらいの少女、そして野性的な少女。
館を訪れる男は、裸で眠る少女を見ながら、残忍な欲望が湧き上がってきたり、ささくれだった心が慰められたり、昔の情事を生々しく思い出したり…。

老人と女たちの放つ匂いがしてくるようで、その死と生の残酷な対比にゾッとした。
性は死へと向かっているようで、どんな結末が待っているのかぞくぞくしながら読んだが、まさかこう来るとは。

「片腕」「散りぬるを」も美しくも醜悪な作品。
「わが悲しき娼婦たちの思い出」とこの作品、どちらが好きかと聞かれたら断然マルケスの方なのだが、いやしかし好き嫌いは別としてすごい作品であることには間違いがないし、読んだら忘れられない印象を残す。
川端康成といえばいわゆる日本の文豪だがかなり気持ち悪い爺だ…。
日本の作家ももっと読まねば!