りつこの読書と落語メモ

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探偵ブロディの事件ファイル

探偵ブロディの事件ファイル

探偵ブロディの事件ファイル

★★★★★

いずれはフランスに住みたいとフランス語の勉強に余念ない私立探偵ジャクソン・ブロディ。目下の仕事は消えた幼女捜し。34年前に3歳で姿を消したのだった(中年の変人姉妹の依頼―死んだ父親の家を片づけていたら、妹が消えた時に持っていたネズミのぬいぐるみが出てきたの!)、そして惨殺された愛する娘の殺人犯捜し(弁護士だった父親の依頼―彼の家は捜査本部のようで、現場写真、地図、タイムテーブル等々で胸が悪くなりそうだ)、消えた黒猫捜し(猫屋敷の老婦人の依頼―誰かがさらっていっちゃうんです)、キャビンアテンダントである妻の浮気調査(被害妄想気味の夫の依頼―こんな男があんなゴージャスな女をどうやってものにしたんだ?)、25年前、夫殺しでつかまった姉の、当時赤ん坊だった娘捜し(ある看護師の依頼―駄目なわたしの代わりに、お母さんになってあげて、と姉に言われたのに…)

面白い!さすがケイトアトキンソン。一応(?)ミステリではあるけれどそれだけじゃない。
ミステリとしては不完全かもしれないけど、フィクションとしてはお釣りがくるくらいの満足度。

冒頭に年代も違う3つの事件が提示される。
この3つの事件につながりがあるのかどうなのかもよく分からないうちに、次の章「ジャクソン」で探偵ジャクソン・ブロディが登場する。
探偵が出てきたってことは最初に提示された事件がこのブロディによって解決されていくのかな?とようやくここにきて物語の進む方向が見えてくる。

探偵ブロディの魅力的なこと!
タフだけどかなり情けなくて、だけど優しくて愚かで。
ブロディが華麗に事件を解決していくというわけではないのだが、彼が入っていくことによって事件以後停滞していた人たちの人生が動き出す。
事件によって断ち切られた人生。事件を解決することは、それまでの彼らの人生を紐解くことにほかならない。

緊張と緩和、シリアスとバカバカしさのバランスがいい加減。
痛ましさに涙が溢れたかと思えば、くだらなさにぶっと吹き出す。
なかなかにトリッキーだが、しらけた気持ちにならないのは、登場人物たちが生き生きと描かれているからだろう。
読みやすい本ではないけれど、楽しい時間だった。
素晴らしい。続編も翻訳されますように!