りつこの読書と落語メモ

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いま見てはいけない

★★★★

ヴェネチアで不思議な老姉妹に出会ったことに始まる夫婦の奇妙な体験、映画『赤い影』の原作「いま見てはいけない」、急病に倒れた牧師の代理でエルサレムへのツアーの引率役を務めることになった聖職者に次々と降りかかる出来事「十字架の道」など、日常を歪める不条理あり、意外な結末あり、天性の語り手である著者の才能が遺憾なく発揮された作品五篇を収める粒選りの短編集。

60年代終わりに発表された作品だが今読んでも全く古びていない。
自分のなかにある恐怖心や想像力に現実が飲み込まれていく恐怖。
本能的に危険を察知しながらも見ずにはいられない。逃げているつもりで実はどんどん深みにはまっていっている。
描きすぎないことで読者の想像力を掻き立てる。
すきまがあるから、何度も繰り返し読んでみたくなるのだろう。

「いま見てはいけない」
表題作はまさに見てはいけないものを見てしまったような後味の悪さ。双子の老婆というだけで怖いのに、そのうちの一人がこちらを突き刺すような視線で見ているというのがさらに怖い。
失意の妻の気持ちを少しでも明るくするための旅行、二人の間でいつも行っている「遊び」の結末がこんなことになるとは…。
ヴェネチアの風景やすれ違う赤いコートなど、視覚的にとても印象に残るので、時々ふとした弾みに思い出して、「あれはなんだったっけ」と頭を悩ませることになりそうだ。
確かに映画に向いている。

「真夜中になる前に」
好奇心は毒。
明らかに狂っている夫と夫の言動にまるで動じない無表情な妻。
ボート、ダイバー、鍾乳洞。まるで映画を見たようにそれぞれのシーンが焼き付いている。
自分の姿を双眼鏡で見られていることに気付くシーンの恐ろしさといったら。

「ボーダーライン」
サスペンスタッチのこの作品がまた面白い。
主人公と一緒にちょっとよろめいただけに、読み終わった時の「やられた」感が…。