りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

私に似た人

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私に似た人

★★★★

小規模なテロが頻発するようになった日本。ひとつひとつの事件は単なる無差別殺人のようだが、実行犯たちは一様に、自らの命をなげうって冷たい社会に抵抗する“レジスタント”と称していた。彼らはいわゆる貧困層に属しており、職場や地域に居場所を見つけられないという共通点が見出せるものの、実生活における接点はなく、特定の組織が関与している形跡もなかった。いつしか人々は、犯行の方法が稚拙で計画性もなく、その規模も小さいことから、一連の事件を“小口テロ”と呼びはじめる―。テロに走る者、テロリストを追う者、実行犯を見下す者、テロリストを憎悪する者…彼らの心象と日常のドラマを精巧に描いた、前人未到のエンターテインメント。

格差社会ワーキングプアSNSでしか心を通わせる相手のいない若者、小口テロ、煽動的な言動で国民の支持を得る総理大臣。 フィクションの世界だけれどこれは2年後の日本かもしれない。

誇りを奪われるばかりの仕事、食事や息抜きを楽しむ余裕すらない暮らし、希望の持てない未来。そんなギリギリの若者が、生きていても仕方ない、それならせめてテロを起こしてこの国を変えてみないかと囁かれたら…。
囁く側にどんな黒幕が…と思っていたら…というところが、この小説の肝なのだろうが、その部分に説得力がなく、尻すぼみ感があってそこが残念。

追い詰められて希望が持てなくてテロに走ってしまう若者の気持ちはわかるのだ。
しかし、彼らを唆してテロを仕掛ける側の気持ちがどうしてもわからない。
小説の中でも「そこがわからない」といって彼らの心情に踏み込むような記述はあったが、どうも納得できない。
このままではだめだ、日本は腐っている、なんとかしなければ、という正義感や善意が、どうして自分の手を汚さずに下層の人たちを唆してテロを起こさせる、という行動に発展するのか。その部分が弱い。

それでもこういうことは大いに起こりうると思う。
絶望と憎悪と捻れた正義感。誰もが持ちうるものだけにとても怖いと思った。