離陸
- 作者: 絲山秋子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2014/09/11
- メディア: 単行本
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「女優を探してほしい」。突如訪ねて来た不気味な黒人イルベールの言葉により、“ぼく”の平凡な人生は大きく動き始める。イスラエル映画に、戦間期のパリに…時空と場所を超えて足跡を残す“女優”とは何者なのか?謎めいた追跡の旅。そして親しき者たちの死。“ぼく”はやがて寄る辺なき生の核心へと迫っていく―人生を襲う不意打ちの死と向き合った傑作長篇。
素晴らしかった。作者の本気が伝わってきて「これは傑作だ!」と読みながらドキドキした。
女スパイが主人公というところが注目されているようだけれど、そこはそれほど重要なことでなくて(もちろん設定としてはものすごく効いているのだけれど)、最後までわからないままのひと、わからないことというのがこの世の中には多い、いやむしろ大抵のことがわからないのだ、ということを言いたかったのかな、と私は思った。
自分の気持ちだって明確にはわからないのだから、他人の気持ちや真意などわかるはずもない。
お互いに好きあっていると確信が持てるからこそ充実している恋愛状態も「他に好きな人ができた」という電話一本で絆が断ち切られてしまう。
自分が悪意を疑ってしまったがゆえにその人の真意に気づけないこともあるし、またその逆もしかり。
人との関わり方がぼんやりしているように見えた主人公が赴任先のフランスでリュシーというフランス人女性に出会い恋愛関係になり心を通わせていくところがとても素敵だ。
こんなふうに人は人を好きになりこの人とだったら一生一緒に歩いていきたいと思って一緒になり、それでも「夫婦」になったからといってもう間違いないというわけでもないのだよなぁ…。
過ちを繰り返しながらも仕事をし誰かとかかわり合いながら死ぬまで生きていく。
喪失を繰り返しながらも生きていくということが丁寧に描かれていると思った。
離陸というタイトルが残す余韻が素晴らしかった。