りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

《新作カフェ09》瀧川鯉八独演会

11/22(土)、らくごカフェで行われた「《新作カフェ09》瀧川鯉八独演会」に行ってきた。
開場してほどなく、会場は満員のお客さん。何を見られるんだろうというお客さんのワクワクした熱を感じる。ほどよく男性のお客さんもいて、とてもいい雰囲気。

・鯉八「俺ほめ」
・鯉八「魔術」
・粋歌「影の人事課」
〜仲入り〜
・鯉八「新日本風土記

鯉八さん「俺ほめ」
「今日ここに集まっている人が今新作を聴く全ての人です。」
うお、強気な発言!と思ったらそうではなくて、新作を聴く人はそれくらい少ないのだという。みんな古典らくごが好きなんですよ、僕もすきですけど、と。
新作をやっているとなかなか地方の仕事に呼ばれない。田舎のおじいさんおばあさんが新作なんか聞かされても困るだろう。

でもこの間山形に行く仕事をもらった。
前座さんに聞いたら、もともとはその前座さんが開口一番を勤めるはずだったのだが、主催の人が2週間ほど前にたまたま鯉八さんを見てそれがそのときとても受けていたので無理矢理ねじ込んできたらしい。
その方にしてもかなりの冒険だったはず。
千人入るホールで開口一番で出てみんながドキドキするなかやりましたよ。
「牛ほめ」。
僕の作った新作がまわりでピチピチ跳ねてるなか、牛ほめ。
びびっちゃって。しかもすごいすべっちゃって。もう呼ばれることはないでしょう、と。

それから発売したばかりのDVDについて。
みなさん見てる前提で話しますけど、あの僕の赤ちゃんからこども時代の写真、かわいくないですか。赤ちゃんはみなかわいいですけどそのなかでもぼくの赤ちゃん時代の写真はかわいい。
インタビューはこのDVDを作った監督さんがしてるんですけど、監督喋りすぎじゃないですか。明らか喋りすぎでしょ、前に出すぎでしょ。二人同時に話してるときがあるんですけどぜんぶぼくが引いてますから。そんなことってありますか?
本人前にして言う言う(笑)。

発売記念落語会のトークコーナーでもそうだったけど、はっきり言う鯉八さんに大笑い。
監督さんも熱い想いがあるだけについつい語りたくなっちゃうんだよー。わかってあげてー。でもそんなふうにいう鯉八さんも素敵。
監督さんがどんどん畳み掛けてきて長考させてくれないから結構あわてて答えちゃってて、改めて見ると結構嘘言っちゃってます。
…わかるなー。改めて自分のこと聞かれると何となく流れでちょっと違うこと言っちゃうの。
録り直したいなどと暴言を吐いて噺へ。

まくらからの流れにピッタリな「俺ほめ」。
誰しも自分をほめてほしいし認めてほしいけど、やはりこういう風に表現することを仕事にしてる人はそうなんだろうなぁ、としみじみ感じる。
わかる人にだけわかればいいという孤高の噺家さんもなかにはいるけどやはりお客さんあっての商売だものなぁ。
でもそういう部分をこうして強調しても、というよりむしろそれだけの噺なのになんでかいやらしくなくて可笑しくて笑えるのがこの噺のすごいところ。
特に今日の鯉八さんは、鯉八さんの間とお客さんの笑いの間がピッタリはまって鳥肌がたつくらい。すごい。

この噺をとちゅうで切ったのにもちょっと驚いた。でもそれはそれでまたよかった。
これはやっていて自分が浄化される、ほんとにやっていて楽しい噺、と。
小三治師匠にもやってほしい、には爆笑。
…やってほしい!!小三治師匠もああ見えてそりゃなかなかの俺ほめだと思うよ!

鯉八さん「魔術」
大人になるとなかなか誉めてもらえない。ある朝起きたらすごい人になってないか、なりたい、なにもしないでなりたい、今も毎日そう思ってる。
そんなまくらから、「魔術」。
いかにも怪しく登場した魔法使い。わーわー言ったり大物っぽく笑ったりするのだが、言われた男は無反応。話してる最中に向こうへ行こうとする。
「おい待てよ魔法使いだぞ。願いを叶えてやるぞ。」
「いい。」
「いや、本物だぞ、なかなか信じられないのはわかるけど。」
「信じてる。」
「じゃ願いを言え。無理だなってやつでもいいから。」
「いい。」

シュール、の一言で終われない面白さがあって、これが鯉八さんの魅力だなぁ。いい!
下がる鯉八さんに、客席からはすごい拍手だった。

粋歌さん「影の人事課」
呼んでいただいてありがとうございます。私先週ここで会をやったんですがこの4分の一ぐらいのお客様で。会が終わって最後に引っ込むときに階段でこけて危うく大怪我をするところでした。ここで言うのもなんなんですけど、ここの階段危ないんですよ、と。
不安定な上にそこに鉄の棒があるのであそこに頭をぶつけたら危なかった。
自分がそんな目に遭ったからっていうのもあれですけど、ここのかたにあれ危ないですよと言ったら、「ああ、そう?あそこで年に三回ぐらいこける人がいるんだよね」
年に三回いるなら、とっとと直さんかい!

鯉八さんとは入門の時期も近くて仕事をご一緒させてもらうことも何回かあるんだけど、いつもなんか落ち着くんです。協会は違うのに親しみを感じるんです。ほっとするんです。
なんでかと考えると、鯉八さんがきく麿師匠とそっくりだから!すごいですよね、あれだけそっくりなのって。
そしてああいう新作を作れるのはすごいですよね。私には作れません。私の場合はじぶんの体験したこととかですね。
と言って、かつて自分もつとめていたことがあるという人事部の噺。

残業中の松下さん。
パソコンを打ちながら、「あー帰りたい疲れたー帰りたいー疲れたー。あ、無意識で疲れたって書いちゃってた」。
わかるわかる!!一人フロアに残って仕事してると地声で帰りたいなんてつぶやいて、自分でその声に驚いたりするんだ。
そこに現れたのが管理人のおばさん。
管理人のおばさんに日頃の鬱憤やなにかを思わず話してしまう松下さん。

ある日スカートを履いて出社すると後輩にデートですか?と言われ、それを言いふらされた。
でもほんとはデートじゃなかった。
「私、その日は健康診断だったんです。35過ぎると婦人科の検診があってそこにスカートで来いって書いてあるんです。」
これには笑ったー。わははははは!わかるわかりすぎる!最高ー!
このあとの展開も落語好き女にはたまらない内容でよかった。粋歌さん、好きだわ。

鯉八さん「新日本風土記
会のあと自分が作った鯉八Tシャツを差し上げます、と言う鯉八さん。
みんながあっけにとられていると、え?販売じゃないんですよ、ただであげますよ!ここがいちばん盛り上がると思ったんですけど、みなさん思っていたより反応が薄いですね。
みんな理解ができなくてボーッとしていたのが、おおおっと拍手すると、遅いわ!っと鯉八さん。
男性も拍手していたんだけど、すみません、男性のはありません。ギャルズにだけです。次回の会にはそれを着て来ていただきたい。むしろギャルズだけ来てくれればいい。不公平と言われるかもしれませんが、私は不公平な人間です。
かわりにはなりませんが男性は手拭いをお持ちください。ツイッターで悪口書いてもいいです。
帰るとき、出口に手拭いがたくさん捨ててあったりして。
相変わらず男性客にやたらと厳しい鯉八さん。
でも男のお客さんにも鯉八さんの世界が大好きな人がいてそういう人に鯉八さんの落語や発言がとても刺さっていると感じた。男のお客さん、大事にせな!(←老婆心)

みなさん都会に住んでるから田舎のことは忘れてしまっているでしょう。勝ち誇っているでしょう。時々は田舎のことも思い出してください。そんなまくらから「新日本風土記」。キテレツでネタ下ろしされた噺だ!

昔話のような独特の世界。Tシャツのトークで沸いていた会場がシーンとなる。
5分以上笑いがクスリとも起こらないので聞いてる方もドキドキしてくる。
でもこの世界いいなぁ、好きだなぁ、凄いなぁ。これはほんとにこのひとにしか作れない空気だ。
しかもこの間聞いたときからおそらくなにも足していないのに、あの時より確実に面白い。これはほんとに演じる側の心の強さが試される噺じゃないかな。

鯉八さん。ナイーブでこの人大丈夫かしらと時々心配になることもあるけど、余計なお世話だったなー。ナイーブだけどとても心の強い人だ。
シーンとしていた客席が、最後の最後、サゲでドッカン。後ろの方から悲鳴のような笑い声。
それと同時に「これでお開きです」と頭を下げる鯉八さん。 かっこよすぎやろ!最高。