低地
- 作者: ジュンパラヒリ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/08/26
- メディア: 単行本
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若くして命を落とした弟。身重の妻と結ばれた兄。過激な革命運動のさなか、両親と身重の妻の眼前、カルカッタの低湿地で射殺された弟。遺された若い妻をアメリカに連れ帰った学究肌の兄。仲睦まじかった兄弟は二十代半ばで生死を分かち、喪失を抱えた男女は、アメリカで新しい家族として歩みだす――。着想から16年、両大陸を舞台に繰り広げられる波乱の家族史。
とても良かった。とても好きだった。
双子のように育った兄弟、スパシュとウダヤン。
物静かで控えめな兄スパシュと、やんちゃで人懐っこい弟ウダヤン。
仲のいい二人だったが、彼らが大学生になり学生運動が盛んになりウダヤンが革命の道に入ったあたりから、二人の運命は二つに分かれていく。
スパシュはアメリカへ留学し、ウダヤンは故郷で教師になりガウリという女性を見初め結婚。親が決めた相手ではなく勝手に結婚相手を決め結婚式も行わないことを両親は嘆くのだが、さらなる悲劇が彼らを待ち受けていた…。
勇気があって誰からも愛されるウダヤンが光なら、兄スパシュは影だ。
ウダヤンを亡くし両親に無視される身重のガウリの姿を見たスパシュは、ガウリをアメリカに連れて帰り家族として迎え入れるという思い切った行動をとるのだが、ガウリはスパシュに心を許すことはなく、やがてベラという娘が生まれても彼がのぞんだような「家族」になることはできない。
勇気や正義感だけが強さではない。誰かを心のそこから心配したり思いやったりすることも強さだ。
正義感が強くて無鉄砲な弟と心優しく慎重な兄。互いを想い合いながらもぬぐいきれない違和感。それでいて切れない絆。
スパシュに感情移入して読んでいると彼が気の毒でならない気持ちになるのだが、母には母の、ガウリにはガウリの理由があり、彼らを責める気持ちも薄れる。
彼らの身にふりかかる過酷な出来事に胸が痛くなりながらもどこか清々しくもある。
ラヒリの新作は相変わらずクールだけど胸に突き刺さる。ベラが電話をかけてくるシーンがたまらなく好きだ。