りつこの読書と落語メモ

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奥泉光×いとうせいこう文芸漫談 シーズン4 第13回泉鏡花 『高野聖』

10/10(金)、北沢タウンホールで行われた「奥泉光×いとうせいこう文芸漫談 シーズン4 第13回泉鏡花高野聖』」に行ってきた。
文芸漫談は本当に久しぶり。必ず面白いので毎回行きたいのだけれどなにせ落語が忙しくて…。

まずは二人がでてきて近況報告。
前回、テニスに夢中な奥泉さんに「熱中症にやられますよ」とせいこうさんが苦言を呈したらしく、「やはりね…夏の報いがきましたよ」という奥泉さん。
なんでも錦織選手の試合を見に行ったのだが、前の晩しこたま飲んで二日酔い。その状態で会場に着いたら秋とはいえかなり強い日差し。ついついそこでビールを買って飲んでしまった。
それで試合を観戦していたらだんだん目眩がしてきて血の気がサーーっと引いてきた。これはまずいと思って後ろの方に移動してポカリを飲んだり寝転んだりしていたら少し具合が良くなってきたので、錦織くんの試合は見届けないとと思って前に行くと、まためまい…。
結局試合どころではなかった、と。

それからお客さんからリクエストがあったのでうちの猫の話をしますがというと、「ええ?いつからこれはラジオになったんですか?リスナーからハガキでも来たんですか?」と驚くせいこうさん。
奥泉さんは熱射病にやられたけど、猫の方は元気で活躍したらしい。
なにせセミをたくさんとりました。うちの猫、私の部屋を食堂と思ってるらしくて、わざわざ私の布団の上に持ってきて食べるんです。羽は食べないので朝起きると掛け布団にセミの羽が落ちてる。それを拾うのが日課。
さらにかまきりも捕まえるんですけど、というと「うへぇ」と嫌がるせいこうさん。
これも食べるのかなぁと思っていたんですけどこの間久しぶりに部屋の掃除をしたら、私の部屋の隅にかまきりの死骸が8つほど並べてありました。
それを聞いて「奥泉さん、もっとこまめに掃除してください」というせいこうさんがおかしい。  

さて「高野聖」。
もともとあまり得意じゃなかったというお二人。とくにせいこうさんは「お耽美」が苦手で、昔読んでちっとも面白いと思わなかった、と。
でも今回改めて読んで面白かった。
「僕、最初に結論をいいますね」と奥泉さん。「あのね、変です。これが結論です」。

参謀本部編纂の地図をまた繰り開いて見るでもなかろう、と思ったけれども、あまりの道じゃから、手を触るのさえ暑苦しい、旅の法衣の袖をかかげて、表紙を附けた折り本になっているのを引っ張りだした。」

・冒頭の文章がすばらしい。あとからわかるのだけれど、「」で括ってある部分は聖の語りになっている。ここが聖の語りだけれど小説的な語りにもなっている。
・語りだしが「参謀本部編纂の地図」というのがなんとも独特。実際にそんな風に語る人はいないけれど、軍の名前を出すことで、これから始まる物語が現代に起きたことであって、むかしむかしの物語ではないということを伝える役もになっている。

ようよう起き上がって道の五、六町も行くと、また同一ように、胴中を乾かして尾も首も見えぬが、ぬたり!

・蛇地獄の描写が理解しがたい部分も多く、面白い。
・「ぬたり!」というのが、せいこうさんの大好きなポップな表現。こんな文章があるか!と怒られそうだが、これは聖の語りの部分なので、こういう表現もあり。落語的でもある。
・この他にも聖の口調が妙にかわいいところがあってキュート。

・七章でまた参謀本部の地図を開くシーンがあり、これが冒頭とつながっている。
・こうやって物語の時系列が行ったり来たりしたり、物語の中に物語が展開する入れ子になっていて、読者を混乱させる効果がある。

「ありったけの蛭が不残吸っただけの人間の血を吐き出すと、それがために土がとけて山一ツ一面に血と泥との大沼にかわるであろう、それと同時に此処に日の光を遮って昼もなお暗い大木が切れ切れに一ツ一ツ昼になってしまうのに相違ないと、いや、全くのことで」

・そしていよいよ蛭地獄。
・これが何度読み返しても意味がわからない、というせいこうさん。
・それを身振り手振りをしながら丁寧に説明する奥泉さん。
・このあといよいよ女が登場するのだが、川で女も裸になり背中を流すシーンなどはさすがに上手で美しい。
・なにかもっとすごいことが起きると思わせて、それ以上のことはない。(だから聖は動物にされずに済んだ)
・変だけど、最初から最後まで自由な語りがすばらしく魅力的。
・鏡花はどの作品もみな粒が揃って高レベル。自然主義という文学の流れに縛られることなく自由に書いた作家という結論。

いやぁ、久しぶりの文芸漫談、楽しかった〜。
とにかくお二人の息がぴったりで漫談がそのまま寄席に出しても通用するレベル。
奥泉さんの自由な語りを時に補完し時に反論するせいこうさんの間の絶妙なこと。
正しく読めてるのかしらと自信のなかった自分の読みをわかりやすく読みくだいてくれて、しかし要するに面白く読めばいいのだよと背中を押してもらったようで、なんとも幸せな気持ちに。