りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

バージェス家の出来事

バージェス家の出来事

バージェス家の出来事

★★★★★

息子が事件を起こした、助けてほしい―妹からの電話をきっかけにニューヨークに住む兄弟は久しぶりに帰郷する。それは家族との絆さえ揺り動かす一年の始まりだった。『オリーヴ・キタリッジの生活』でピュリッツァー賞を受賞した著者が描く、ある家族の物語。

腕利きの弁護士の兄ジムと、優しいけれどぱっとしない弟のボブ、ボブの双子の妹スーザン。
故郷メイン州を離れて暮らすジムとボブ、故郷に残り一人息子ザックと暮らすスーザン。つかず離れずの付き合いになっていた兄弟たちだったが、ある日スーザンからジムに電話がかかる。ザックが事件を起こし騒動になりそうだから助けてほしい、と。
ジムは妻ヘレンとバカンスに出かけることになっていて、予定をキャンセルするのは嫌だと言うヘレンに苛立ちを隠せないジム。
そんな二人を見て、自分が行ってくるからバカンスを楽しめと言うボブ。
かくして、「役に立たない方」のボブが久しぶりにメイン州を訪れるのだが…。

彼ら兄弟の心に大きく影を落としているのが父親の死。
幼い頃子どもたちが3人で車の中で遊んでいて誤ってボブが車を発進させ父を轢き殺してしまったのである。
そのことで自分を責め続けているボブは、自分がしくじって全てを台無しにしてしまうのではないかという不安感に常に苛まれ続けている。
母に嫌われていたという気持ちを捨てきれないスーザンは人生を楽しむことができない。
そしてそんな彼らとは裏腹に成功を手にしたジムも実はおおきな秘密を抱えていて…。

スーザンの息子ザックが起こした事件は人種問題に発展し大騒動を引き起こす。
村に大量に流れ込んできたソマリ人の移民たち。
言葉の通じない彼らとはコミュニケーションもとれず、お互いの反発は増すばかり。
無意識にとった行動が悪意にとられ、移民を擁護する人たち、移民など追い出せと叫ぶ人たち、それらを煽るマスコミ。
困惑するバージェス家の人びとだが、彼らの心の中にも差別の気持ちや思い込みはある…。

オリーヴキタリッジ以上に陰鬱で明るい要素はほとんどないのに読んでいて楽しいという不思議。
私たちは弱いから見たくないものは見ないようにして自分の周辺のことだけを見て生きているけど、例えば自分が住んでいる町にソマリ人が大量に移住してきたり、甥がとんでもない事件を起こして助けてくれと泣きついてきたり…自分の日常を脅かされたとき…と想像すると、薄っぺらいなにもできない自分が表に出てしまうんだろうなぁと思う。
見て見ぬふりをしたり弱者を切り捨てた経験がない人間はいないだろうが、自分が圧倒的な弱者になってしまうこともある。

大人になってからでも成長することはできる。
過ちをおかさずにはいられない私たちだけどそれでも救いはある、そう信じられるラストが素敵だ。