りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

マンゾーニ家の人々

マンゾーニ家の人々(上) (白水Uブックス177)

マンゾーニ家の人々(上) (白水Uブックス177)

マンゾーニ家の人々(下) (白水Uブックス178)

マンゾーニ家の人々(下) (白水Uブックス178)

★★★★★

アレッサンドロ・マンゾーニは19世紀イタリアの国民的な詩人・作家であり、彼の著した『いいなづけ』は、ダンテの『神曲』とならぶイタリア文学史上の傑作である。
文豪の生涯を描くに際し、作者のギンズブルグは、マンゾーニを表面的な主人公とはせず、家族や友人の間で取り交わされた厖大な書簡を時代やテーマにしたがって再構成することによって、従来にないマンゾーニ像を提示したのである。
どの書簡にもマンゾーニ家の人々の生活の細部までが活写されており、あたかもアナール派の歴史書をひもとくように、家族の一員としてのマンゾーニの心の色がしみじみと伝わってくる。子供たちが生まれ、成長し、死んでゆく。一家の人々は、次々と起こる出来事に喜び、悲しみ、嘆き、笑う。ここには「文豪」マンゾーニではなく、家族という大河の流れのなかで浮沈するひとりの男の姿が描かれている。
『ある家族の会話』の作者ギンズブルグが円熟の季節に到達して描いた現代イタリア文学の傑作長編。『ミラノ 霧の風景』の著者が秀麗な訳にて贈る。

イタリアで非常に権威ある作家として名高いマンゾーニの生涯を、一家や友人たちが交わした書簡から紐解く物語。
「ある家族の会話」のような作品を期待して読んだので、上巻の半分ぐらいまではあまりの淡々さに、最後まで読みきることができるか不安になった。
そもそもマンゾーニを知らないし、手紙のやりとりのなかで語られるのは、誰かが病気になってお金の無心をして会いたがってでも会えなくて、結婚話が持ち上がって持参金でもめて…という非常に日常的な出来事。次々出てくる親類縁者に名前もごちゃ混ぜになるし、しかもみな似たような名前なので、誰が誰だかわからなくなって家系図を何度も見直した。

しかしなんだろう。一見退屈な日常のやりとりの中から浮かび上がってくる人間像や、いったんは蜜月とも呼べるような熱い交流があった友人関係が徐々に冷めていったり、それを一方が惜しんだり…。
時代も価値観も違う彼らのことが途中から他人とは思えないほど近しく感じられるようになってきた。

貴族なので家柄や持参金などが結婚の際には問題になったり、親族が亡くなったとき、遺産のことで親が子を訴えたり子が不服を申し立てたりすることも普通に行われ、その後関係が悪くなったりするのだが、なにかをきっかけに和解したりすることもあって、驚く。
またマンゾーニの最初の妻が敬虔なクリスチャンで夫や義母にも従順な女性だったのに、二度目の妻がわがままで義母や女中や子どもたちの評判が悪かったにも関わらず、マンゾーニとの間には確かな絆があってそれが彼の創作にも影響を与えていたことも面白い。

この長い物語を読んでしみじみ感じたのは、私たちは近頃何もかもを単純化しすぎているんじゃないかということ。
善悪では割りきれない人間の複雑さと人間関係を書簡から浮かび上がらせるこの技量。やはりギンズブルグはすごい作家だと感じた。