りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

翻訳教育

翻訳教育

翻訳教育

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我々はみな、「翻訳」している―人間の営みは、互いが互いを訳しあう中から立ち上がってきたのではないか。スタンダールからウエルベックまで手掛けるフランス文学の名翻訳家がその営為の本質に迫り、言葉・文学・世界を思索する極上のエッセー。

良かった。翻訳本が大好きなので、日本語がおかしいとか読みづらいとか母国語じゃないからと言われると、ええ?!って思っていて、だけどそういう場でうまく反論出来なくて歯がゆい気持ちでいたんだけど、野崎さんの熱い想いを読んでいろいろ納得がいったのだった。

翻訳で読んだスタンダールバルザックセリーヌがあんなにもおもしろかったからこそ、自分でもいつか翻訳をやりたいと夢見ながらフランス語学習に励んだのだ。そればかりではない。そもそも文学には「国語」に限定されない驚くべき広がりと豊かさがあり、想像もつかない多様さがあるという事実をティーンエイジャーですらまざまざと感受しえたのは、翻訳があるからこそだった。さまざまな翻訳者たちの仕事のおかげで、世界文学の刺激的な作品群が一地方都市の浜辺にまで打ち寄せてきていたのだ。

そう!そうなのだよ!
日本人が書いた小説が日本人に理解しやすいのは確かにそうだろうと思うし、母国語で読むということの意味というのももちろんあるとはおもう。
でも私の場合は本を読んでいる時に時代背景や国の文化や言い回しで多少わからないところがあったとしてもそれはそれ。それ以上に広がる世界や違った価値観、またそれほど違うのに共通する感情や行動が本当に面白くて、母国語でないということなんてほんの瑣末なことに思える。

そりゃ時々はカクカクした文章で引っかかって「これは翻訳がイマイチなのでは…?」と生意気な想いを抱くこともあるけれど、たいていはそんなことはなく、心を揺さぶられたり文章に痺れたりして読んでいるわけで、翻訳本がなくなったら私の楽しみは…私の世界はぐっと小さくなってしまう、と思うのだ。
この本の第一章「翻訳の大いなる連鎖」には翻訳本愛好家の私も深くうなづいたのだった。

一度対談を見に行ったことがあって、とてもスマートで素敵な人という印象があったんだけどその印象は変わらない。文学への憧れと情熱を持った本当に素敵な人だなぁ…。
この本では野崎さんが要所要所で感銘を受けた本についてかなり踏み込んだところまで触れていて、それだけでも十分面白いし、こういう文学に対する信頼とリスペクトを抱いた方が翻訳をされているかと思うと、せめてもっとちゃんと理解ができるように丁寧に読まないといけないなぁ、と反省もするのだった。

翻訳家の方がいるからこそ、語学のできない私たちが世界の文学を読むことができる。本当に感謝と尊敬の気持ちでいっぱいだ。