りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

小川洋子の陶酔短篇箱

小川洋子の陶酔短篇箱

小川洋子の陶酔短篇箱

★★★★★

河童、猫、牧神、鮫、鯉……。動物や生き物たちと人間たち。「河童玉」(川上弘美)、「愛撫」(梶井基次郎)など選び抜かれた16本と小川洋子のエッセイが奏でる究極のアンソロジー集!

前作の「小川洋子の偏愛短篇箱」もとても良かったので期待して読んだ一冊。
何となく読みにくそうと敬遠していたり存在すら知らなかったり一生縁がないんだろうなと思っていた作家たち。小川さんにこんな風に集めてもらって、読みの助けになるようなならないようなエッセイまで付いていて、お得感半端ない。

川上弘美「河童玉」
親友のウテナさんが愛恋については人間界随一だとお聞きしてぜひ相談に乗っていただきたいと河童が訪ねてくる。
河童に連れられて川の奥底へ行ってみれば、妻といたすことができなくなってしまってどうにかしてほしいと真剣に相談されてしまうウテナさん。
そんなこと言われても…と困っていると河童たちが宴を催してくれてそのうち飲めや歌えや踊れやのどんちゃん騒ぎ。男の河童が「あちらのことをいたしませんかな」と何回もやってきては何回も誘ってくる。恐る恐る断ると気を悪くするふうでもなく踊りに戻っていくのだが、またやってくる…。
気持ち悪いような話なのに、からっとおかしくてなんとも楽しい。
いかにも川上さんらしい、でもどこか小川さんっぽくもあるのが面白い。

泉鏡花「外科室」
外科手術の前の麻酔を断固拒否の伯爵夫人。彼女には秘密があって麻酔をかけられたりしたらその秘密をうわ言で喋ってしまうかもしれない。それを恐れて手術するのであれば麻酔をせずに切ってくれ、というのである…。
ほとんど読んだことがなかったしこれから先も読むことはないだろうと思っていた泉鏡花。日文を出ているくせに旧仮名遣いを見ただけでアレルギー反応が。しかしこれが読んでみたら面白かった。他の作品も読んでみたくなった(恐る恐る…)。

木山捷平「逢びき」
名前も知らなかった作家。なんとも言えずユーモラスでちょっと泥臭くて面白い。
この時代の日本の作家をほとんど知らないのだ。毛嫌いしていたと言ってもいいのだが、最近なんか読める気がしてきた。

魚住陽子「雨の中で最初に濡れる」
わりと新しい作品だけれど、「逢びき」の後に入っていてなんの違和感もない。

武田泰淳「いりみだれた散歩」
一度読んでみようと思いながらなんとなく腰が引けていたのだが、とても読みやすく静かに流れる時間が心地よかった。

色川武大「雀」
面白かった!一生読むことはないだろうと思っていた作家だったが、なんだこれ?!というぐらい面白かった。雀の戸籍って!

平岡篤頼「犯された兎」
兎好きとしてはお願いやめて…やめてね…と思いながら不安感いっぱいで読んだのだが、なんともいえず不吉ででも何か見たことがあるような光景、空気で目が離せない、そんな作品だった。

庄野潤三「五人の男」
一度読んでみようとは思っていたのだけれど、良かった。とても好きだった。これで一歩が踏み出せそうだ。ありがとう、小川さん。