りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

脳天壊了―吉田知子選集〈1〉

脳天壊了―吉田知子選集〈1〉

脳天壊了―吉田知子選集〈1〉

★★★★

作家・吉田知子の小説選集第一弾。巻末には町田康氏が考える「脳天壊了」への問いを収録。

幻想とか奇想とかそういう単語では括れない足元がぐらつくような得体の知れない物語たち。
しかしキモチワルイだけではなくて、心引かれたり目がそらせなかったり原体験的な懐かしさがあったり思わず声を出して笑ってしまうようなユーモアがあったり。
いったいこの人はどんな人なのだろうと作者に思いをはせずにはいられなくなる。

「脳天壊了」
「のうてんふぁいら」とルビが振ってあり兵隊シナ語らしい。
幼馴染の杢平と中瀬。学もありずる賢いところのある中瀬は常に杢平の前を歩く存在で、馬鹿にされたりはめられたりしながらも離れることができず、満州では人殺しの手伝いさえした。そんな中瀬が病魔に冒され意識朦朧と床に着いている。
弱りきった中瀬に今まで溜まりに溜まっていた鬱屈した想いをぶつける杢平だが、毎日中瀬の様子を見に行かずにはいられない。

日の当たらないかび臭い部屋。話の通じない老婆。信用ならない甥。吠える犬。何もかもを見透かしたような子供。そのなにもかもが不吉でだけど非常に近しくて自分もその部屋に行ったことがあるような既視感。
日本人だから分かる、そういう部分が確かにあるように思う。

ニュージーランド」「乞食谷」
これは悪夢だ。
騙されたのかみずからそれを望んでいたのかわからないけれど、ずるずると引きずり込まれもう逃れることはできない。気がつけば自分もそれを望んでいてそうなっているかもしれない、狂っているのは世界だけではなく自分もそうなのかもしれない、という気にさせるところが恐ろしい。

「寓話」「東堂のこと」
栄えているときも滅びていくときも喜びもせず悲しみもせず無表情で受け入れる。日本的ななにか。

既読は「お供え」だけだったのだが、表題作始めどの作品も甲乙付けがたい。
いわゆる「奇想」が好きな人にはぜひとも読んでもらいたい。だけど間違いなく言えることは弱ってる時に読んじゃダメ。