りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

遠い水平線

遠い水平線 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

遠い水平線 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

★★★★

ある夜運びこまれた身元不明の他殺死体。死体置場の番人スピーノは、不思議な思いにかられて男の正体を探索しはじめる。断片的にたどられる男の生の軌跡。港町の街角に見え隠れする水平線。カモメが一羽、ぼくを尾けているような気がする、と新聞社の友人に電話するスピーノ…遊戯性と深遠な哲学が同居する『インド夜想曲』の作者タブッキの傑作中編。

タブツキだから明快な回答が出されるわけはないと思ったけれど、物語がミステリー仕立てなだけに明快な回答がほしい。ううむ…。
わかったようなわからないようなわかりたくてもう一度読み直してもますますわからないのだけれどなにか少しわかるような気がしないでもないような。

自分と他人との境界が曖昧になり存在していることと存在してないことの境界が曖昧になっていくのは不安を誘う。
そもそも生きていてはっきりと答えが分かることのほうが少ない。自分のことだって曖昧なのに他人のことなんかわかるはずもない。だけど妙に気になったり惹きつけられたりすることがある。誰に聞けば答えに近づくのか真相がわかるのかそもそも本人だってちゃんと分かっていたのかさえわからないのに、分かりたい、わからないわけにはいかない、そんなときがある。

スピーノもおそらくそうだったのだろう。
知らないわけにはいかない。知る義務と責任がある。
その責任感が強かったからなのか、誰かが教えてくれたわけじゃないのにわかった気がする。いやわかったのだ。それが正解なのだ。正解じゃないはずがないのだ。なぜならその正解にたどり着くのは自分をおいて他にはいないのだから。

笑いながら暗闇に足を踏み出したスピーノはいったいどこへ向かうのだろう。
恐ろしい現実が待っているような、結局のところ現実はなにも変わらずにそこにあるような…だからこそ怖いような、もやもやした終わり。