りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

魔法の樽 他十二篇

魔法の樽 他十二篇 (岩波文庫)

魔法の樽 他十二篇 (岩波文庫)

★★★★★

とりあえず、結婚だ。―宗教者をめざして勉強する青年は決断した。しかし現れた仲介業者がどうも怪しい。“樽いっぱい花嫁候補のカードだよ”とうそぶくのだが…。ニューヨークのユダヤ人社会で、現実と神秘の交錯する表題作ほか、現代のおとぎ話十三篇。

面白い。
読んでいると脂が抜けてカサカサになるような、逃れられない誰かに執拗に追いかけられるような、そんな気分になる作品が多い。
だが嫌な感じはなくて不思議と落ち着いた気持ちになるのは、宗教感によるものなのだろうか。

「夏の読書」
ふとした弾みでついてしまった嘘。一時的にはその嘘のおかげで自分が少し偉くなったようないっぱしの人物になったような気分を味わえるのだが、もちろんそのままでいられはずもなく、その嘘が自分を追い詰めていく。嘘であることが白日のもとにさらされた時、彼がとった行動は…。
人生の苦さをにじませながら、若者を見守る温かい視線がいい。

「魔法の樽」
ラビに就く予定の男が妻を持った方がハクがつくだろうと考えて結婚仲介業者に女性を紹介してもらう。この仲介業者がどこをどうとは言いづらいのだが実に不愉快なのだ。
初対面でいきなり目の前で食事を始めるシーンがあるのだが、生理的に嫌な感じ。相手の方が無作法なのに、むしろこちらが居心地が悪くなるような…。

不愉快な相手に対峙することで自分自身の内面が浮き彫りになっていく。そして罠にはまるように思うつぼにはまっていくのだが、それが相手の術中にはまって…というよりは、神のおぼしめしのような?むしろ受け入れるべきこととして描かれているような印象を持つ。
突き抜けた諦めというか、所詮人間の意思というのはたいしたものではないのだ、という悟りのようなものを感じる。