りつこの読書と落語メモ

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なぎさ

なぎさ (単行本)

なぎさ (単行本)

★★★★★

家事だけが取り柄の主婦、冬乃と、会社員の佐々井。同窓生夫婦二人は故郷長野を飛び出し、久里浜で静かに暮らしていた。佐々井は毎日妻の作る弁当を食べながら、出社せず釣り三昧。佐々井と行動を共にする会社の後輩の川崎は、自分たちの勤め先がブラック企業だと気づいていた。元芸人志望、何をやっても中途半端な川崎は、恋人以外の女性とも関係を持ち、自堕落に日々を過ごしている。夫と川崎に黙々と弁当を作っていた冬乃だったが、転がり込んできた元漫画家の妹、菫に誘われ、「なぎさカフェ」を始めることになる。姉妹が開店準備に忙殺されるうち、佐々井と川崎の身にはそれぞれ大変なことが起こっていた―。苦難を乗り越え生きることの希望を描く、著者15年ぶりの長編小説!

久しぶりに読んだ山本文緒
ブラック企業でスポイルされて疲弊していって判断力がなくなっていく感じやうちに籠ってどんどん手足が動かなくなる感じなど他人事とは思えず読んでいて苦しくなる。
夫婦、姉妹であっても、相手がなにを考えているのか自分のことをどう思っているのかがわからない。
大切な相手だからこそ確かめることができない。そして自分自身の気持ちもおぼつかない。

妻である冬乃から見れば「いつもどおり」に見えている夫の佐々井も、同じ会社で働いている部下川崎から見れば、ブラック企業で会社の変化に身を委ねながら必死にしがみついている企業戦士だ。
大口の取引先から干されてやることもなくふたりで釣りに行っていた日々は、ある日取引先が態度を軟化させたことから一変する。
どんどん増える仕事、無茶な要求、失敗すれば助けてくれるどころか捌け口を求めるかのように執拗に責めてくる自社の社員たち。

夫がそんな目にあっていることも知らず、冬乃は元漫画家の妹、薫に誘われて「なぎさカフェ」を始めることになる。
専業主婦として閉塞的な日々を送ってきた冬乃はカフェの仕事に忙殺されながらも、徐々に自信をつけていき、カフェの経営も順調に見えていたのだが…。

辛ければ辛いほど誰かに相談ができないのはなぜだろう。
自分の我慢が足りないのだ、自分が不甲斐ないだけなのだ、そんなふうにしてどんどん内にこもっていき、自分で自分を見失ってしまう。
それでもぱつぱつの状態に風穴を開けてくれるのは自分以外の誰かなのだ。
それは一番身近にいる家族ではなく、一緒に働いていた頼りない部下かもしれないし、たまたま知り合っただけの人だったりする。
想い合っているからこそ相談できなかったり酷い言葉を投げかけてしまったりすることもあるけれど、しかし自分が正常な状態に戻れば、なにより大事なものであり自分の拠り所なのだ。

巻き込まれて振り回されて傷つけられても、ゼロになるわけではない。
最後の方は泣きながら読んだ。とても良かった。