りつこの読書と落語メモ

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ひとりの体で

ひとりの体で 上

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ひとりの体で 下

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★★★★★

美しい図書館司書に恋をした少年は、ハンサムで冷酷なレスリング選手にも惹かれていた――。小さな田舎町に生まれ、バイセクシャルとしての自分を葛藤の後に受け入れた少年。やがて彼は、友人たちも、そして自らの父親も、それぞれに性の秘密を抱えていたことを知る――。ある多情な作家と彼が愛したセクシャル・マイノリティーたちの、半世紀にわたる性の物語。切なくあたたかな、欲望と秘密をめぐる傑作長篇。

主人公ビリーは少年時代に美しい図書館司書ミス・フロストと出会い、彼女のアドバイスに従って読書の喜びに目覚める。ビリーはミス・フロストによって目覚めさせられたのは読書欲だけではなく性への目覚めも彼女によってもたらされる。母とほとんど年が変わらないミス・フロストに惹かれながら、同時にビリーは同じ男子校に通うキトリッジにも性的に引き寄せられていく。
レスリング部のエースであるキトリッジは、ビリーの養父リチャードが指導する演劇チームでも常に主役を演じるハンサムな少年。意地が悪くて配的なキトリッジのことを、恐れながらも恋しているのは、ビリーだけではなくビリーの親友エレインも同様だ。仲の良いビリーとエレインは同級生たちからはカップルのように思われているが、お互いに異性として惹かれあってはいないのだが、キトリッジへの思慕を隠したいビリーには都合のいい隠れ蓑でもあった。

美しいけれどどこかかたくなな母、ビリーを優しく見守る祖父のハリー、美人で巨乳だけれど頭が固くて支配的な叔母のミュリエル、気がいいけれど酒飲みで妻ミュリエルに頭の上がらない叔父のボブ、母に恋をして夫となるリチャード。
家族もそれぞれに問題を抱え、成長とともにビリーは幼い頃は憧れの存在だった養父リチャードに失望したり、母を恨んだりするようになる。

作家になったビリーが70歳を前に過去を振り返り綴っているというのがこの物語で、過去と現在を行ったり来たりしながら、時々ビリーの想いがほとばしりすぎて話が飛躍したりしながら、物語は進んでいく。

上巻はアーヴィングにしてはコッテリが足りない感じがしたのだが、下巻にいって加速をつけて面白くなった。
ジェンダーがテーマになっているが、もちろんそれだけの話ではない。
自分の性とどう折り合いをつけていくのか、特にそれがマイノリティーだった時、外圧ももちろんのことだが、自分自身の中での葛藤が大きい。
男と女の間を行ったり来たりしながら、時に自分を見失っているようにも見えたビリーだが、友人や家族と断絶したり支え合いながら成長していく姿には、感動を覚える。

誰もが、家族や政治、老いや死からは逃れられないし、残りの人生をどう生きてどう死んでいくかは普遍的な問題だ。
物語の後半になって退場者が増えていくのは寂しかったが、喪失だけではない、形にはならないけれど得ているものもある。
散りばめられたピースが回収されていくのが心地よく楽しい読書の時間だった。アーヴィング、ラブ。