りつこの読書と落語メモ

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世界中で迷子になって

世界中で迷子になって

世界中で迷子になって

★★★★★

ニューヨーク、タイ、ポルトガル、モロッコ、ミャンマー、モンゴル、キューバ…味わい深い、人と事件とモノ語り。ベストセラー作家が描く旅&モノの極上エッセイ集。

大好きだ。
エッセイは基本的にその人が好きでないと読んでいて面白いと感じられないのだが、そういう意味で、角田さんは本当に好き。友達になりたい。他人とは思えない。

長距離バスに乗っていてトイレに行きたくてひたすら我慢していたときの話。

「あの、我慢ができません」私はまた、運転手の」背中につぶやいた。声がよっぽどせっぱつまっていたのだろう、運転手はこのときはじめてふりかえり、頼りなげな声で何か言った。
「我慢できないの?」と言ったように聞こえた。「はい、限界です」私は日本語で答えた。
(中略)
かくしてバスに乗ってた地元の人・英語を理解できる旅行者、つまりほとんど全員に、私がトイレにいきたくてたいへんなことになっていることが知れ渡った。けれどこのとき、トイレ度がぐんぐん上がり、頭のなかが真っ白になってきて、恥ずかしいと感じる余裕もなかった。「見えた、あれが休憩所だ!」運転手と青年は叫び、バスは休憩所にすべりこみ、乗車口が開いた。すると乗客全員が私をふりかえり、さあいってこい、早くいってこい、と身振りで示し、みな私が降りるのを待っている。

あった、あったこういうこと。
スキーバスでトイレに行きたくなって、休憩所にたどり着くまでの間、心の中で歌を歌いまくりひたすら股間に力を入れまくり、それでもいよいよもうだめか!という状態まで追い詰められた時は、深夜でバスの中が真っ暗だからここでどうにかこっそりいたすことはできないか…いやしかし音とにほひが…そこをどうにかクリアできればできなくはないか…そこまでやるのならバスを止めてもらって路肩でやるっていう手もなくはないか…と逡巡した記憶…。
異国の地でバスに乗っていてトイレが我慢できず乗客全員から心配される角田さん。アナタハモウワタシノトモダチ!

物をなくしてこの世の終わりぐらい絶望するのにまた同じことを繰り返してしまったり、旅の計画を立てられずその国で行われる犯罪のページばかり熟読してしまったり、セールに弱かったり、気難しいのに人が好きだったり、ネガティヴなのに体当たりだったり、気まぐれなのに粘り強かったり、いろんなところがわかるわかる!で、他人とは思えない。

これ見よがしではないのに、的確で本質をついた洞察と文章に唸ってしまう。
好きだわー、角田さん。エッセイを読んでこんなに共感したのは初めてかもしれない。