りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

盆栽/木々の私生活

盆栽/木々の私生活 (EXLIBRIS)

盆栽/木々の私生活 (EXLIBRIS)

★★★★★

チリの首都サンティアゴに住む、作家志望の若者フリオ。学生時代、彼にはエミリアという恋人がいた。彼女と過ごした日々、二人が読んだ本の数々、現在フリオが書く小説「盆栽」の構想、そしてエミリアの死…メタフィクション的かつ斬新な語りと、生と死をめぐる即物的なまでの描写が胸を打つ(『盆栽』)。ある晩、絵画教室から戻らない妻ベロニカを待ちながら、幼い義理の娘ダニエラを寝かしつけるために自作の物語「木々の私生活」を語り聞かせる日曜作家のフリアン。妻は帰ってくるのか、こないのか。不意によみがえる過去の記憶と、彼と娘の未来が、一夜の凝縮した時間から広がっていく(『木々の私生活』)。樹木を共通のモチーフとして、創作と書物、失われた愛、不在と喪失の哀しみを濃密に浮かび上がらせる。深い余韻を残す、珠玉の二篇。

面白い!ラテンアメリカの印象を覆す、静かで繊細な筆致。文学好きで奥手な主人公が作者のイメージと重なる。
言葉数は多くないけど内面の厚みを感じさせて、なんとも魅力的だ。

「盆栽」も「木々の私生活」も、別れを描いた小説だ。
最初に結論が提示され、その後そうなるに至った物語があっちこっち寄り道しながら語られていく。
ぎょっとするような出来事を、当事者としてではなく、それを少し離れたところから見つめる作家の視線で描いている。文学好き、創作の裏側が散りばめられているのが楽しい。

当事者としてではなく、少し離れたところから描かれているので、ぎょっとするような出来事も、それを面白がって見ている視線があるので、読んでいる側も巻き込まれるというよりは淡々と読み進めるような感じ。
それだけに「木々の私生活」の最終章にはやられた。泣けるほどいい。