りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

愛のゆくえ

愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)

愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)

★★★★

ここは人々が一番大切な思いを綴った本だけを保管する珍しい図書館。住み込み館員の私は、もう三年も外に出ていない。そんな私がある夜やって来た完璧すぎる容姿に悩む美女と恋に落ちた。そして彼女の妊娠をきっかけに思わぬ遠出をするはめになる。歩くだけで羨望と嫉妬の視線を集める彼女は行く先々で騒動を起こしてゆく。ようやく旅を終えた私たちの前には新しい世界が開けていた…不器用な男女の風変わりな恋物語

これも本のまくらで買った。新潮文庫版が家にあって読んだはずなのだが、書き出しに覚えもなければ内容もまったく覚えていなかった。

誰にも読まれることのない本を預かる図書館で本を預かる図書館員が主人公。
彼は数年来図書館からは一歩も出ずにただひたすら本を持ってくる人を待ち、彼らを暖かく迎え入れることだけに全てを注いでいる。
そんな彼のもとへ本を持ち込んだヴァイダ。中身と外見のアンバランスさが彼の目を奪う。 美しくてグラマラスなヴァイダは常に男たちからは欲望に満ちた視線を注がれ、女たちからは嫉妬の眼差しを注がれる。
二人は一緒に暮らすようになるのだが、ヴァイダが妊娠し堕胎を行うため、二人でサンディエゴへ向かう…。

「愛のゆくえ」なんという素敵タイトルがついているが、原題は「THE ABORTION」(中絶)。 図書館はさながら本の墓場で、そこに住み込んで24時間対応する主人公は墓守といったところか。
美しすぎる外見をもて余す恋人が妊娠し二人は堕胎を行うためにサンディエゴを目指す。その旅の中で停滞していた彼らが動き出すのか、成長を遂げるのかと読んでる側は期待するのだが…。
中絶手術のシーンさえも淡々とユーモラスに描かれてるのだが、それがまた不気味だ。
何人もの中絶手術を行った医者がステーキをもぐもぐ食べるシーンのおぞましさよ…。

作者の最期を知っているだけに、死の香りが漂い、一見爽やかに描かれたラストすら不吉に感じてしまう。