りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

すばらしい新世界

すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)

すばらしい新世界 (光文社古典新訳文庫)

★★★★

西暦2540年。人間の工場生産と条件付け教育、フリーセックスの奨励、快楽薬の配給によって、人類は不満と無縁の安定社会を築いていた。だが、時代の異端児たちと未開社会から来たジョンは、世界に疑問を抱き始め…驚くべき洞察力で描かれた、ディストピア小説の決定版!

なんとも感想が書きづらい作品だ。
文明も未開どちらもなかなかにグロテスクで極端に描かれているので、どちらも嫌だなぁ。
幸福になるためには視野が狭い方がいい。過去を振り返ること、親子、夫婦の関係を断つこと、与えられた環境に疑問を持たないこと。確かにある意味「正論」かもしれないけれど、キモチワルイ。

どこにいても人と違っていることは孤独の種で、だからこそそこから逃れたいと願うものだけど、そういう人間はどこにいても結局孤独でしかいられない。
ユートピアなんてどこにもない。
「こうありたい」と思えばこそ「そうなれない自分」が情けなく苦しい。
自分で自分のことさえも思うに任せないのだから、自分以外の人間は余計にそうなわけで。だからこそ恋愛や親子関係や友人関係で悩んで苦しむのだろう。

だからといって「こうありたい」ということをそもそも思わない世界に生きたいとは思わない。
誰とも深くかかわらず関係を持たない世界がハッピーとは思わない。

それでも苦しみを一瞬にして忘れさせてくれる「ソーマ」はちょっとほしいなぁ。いや、やっぱりいらない。いらないや。
私はこのままがいい。このままでいいよ。