りつこの読書と落語メモ

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いつかわたしに会いにきて

いつかわたしに会いにきて (ハヤカワepi文庫)

いつかわたしに会いにきて (ハヤカワepi文庫)

★★★★

わたしが魅かれる男はいつも他人のもの。妹の夫も寝取った。妹はそれも気づかず、真面目に生きたらどうかとうるさい。奔放な姉が目覚める真実が胸に迫る「他人の夫」。派遣先でわたしは変わった女性と同僚になった。毎日一緒にいるうちに仲良くなったある日、彼女は衝撃の告白を…親密さが生む不可思議な心理を描く「女装する者」。恋や人生に戸惑い孤独に揺れる女性たちを可笑しみと哀しみをこめて綴る瑞々しい短篇集。

大好きな古屋美登里さんの翻訳なので、読みたい本リストに長いことメモしたままだったのが、本のまくらフェアで運命の出会い!本のまくらで買ったのがほとんど既読の本だっただけにこれは嬉しかった。
ちなみにまくらはこちら。

わたしは他人の夫と寝るのが好きだ。

「まくらカバー」をつけて読むのは勇気がいりますなぁ…。はっはっは。
レジに持っていくのも少し恥ずかしかったから何冊かまとめて買った。これをまくらに選ぶセンスが素晴らしいな。思わず買ってしまった人、きっと私の他にもいたんじゃないかな。

ひりっと痛い話が多いが、ユーモアもあってとても好み。
ミランダ・ジュライももちろん面白いけど、なぜミランダ・ジュライばかり取り上げる?他にももっともっと面白い女流作家はいるのに。とちらっと思う。

「情け」
DV夫の元から逃げニューヨークで暮らす「わたし」。
中華料理屋の2階に住み、仕事を探すがなかなかうまくいかない。
中華料理屋を営むキムは離婚した妻から息子を取戻し二人で暮らし始める。そんな父息子と心を通わせるようになった「わたし」は、夫から逃げる決意をするきっかけになった出来事について、キムに語り始める。

物語は唐突に始まり「わたし」の語り口もユーモラスなので深刻さは感じられない。
それでも「わたし」には根無し草のような危うさがあってそれはなんなのか、というのが彼女が語る短い物語から浮かび上がってくる。
彼女が見たほんの一瞬の出来事。それが彼女に一歩を踏み出す勇気をあたえた。
短い物語で最小限の言葉で彼女の内面を表現し、読者になんともいえない余韻を残す。素晴らしい。

「他人の夫」
他人の夫と寝るのが好きだ、と言う「わたし」は、妹の夫とも寝ている。そんな姉妹が二人で旅に出て、お互いのことを見つめあって…。

自分の結婚に一ミリの疑問も抱かず姉に安定した生活を勧める妹と、その妹の夫と寝ることで一矢報いた気持ちになっている姉。
「ビョーキ」と言いたくなるような残酷な行動をとる姉と、それに気づかず自分の結婚のノロケを聞かせ続ける妹。
ぞっとするような話なのだが、グロテスクさよりも人間の哀しさを感じてしまう。
なんとまあ人間と言うのは愚かで小さくて浅はかなものなのだろうか、と。

落ちている時に読んだら本当に落ち込んじゃうかも、という苦い物語が多い。
恋愛の先にあるもの、叶わなかった夢の先にあるもの。生きていくって大変だ。だけど苦さの先に笑いだしたくなるような希望もちらりと見える。
他の作品も読んでみたい。翻訳されないかなぁ。