りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

泥酔懺悔

泥酔懺悔

泥酔懺悔

★★★★

泥酔せずともお酒を飲めば酔っ払う。酒席は飲める人には楽しく、下戸には時に不可解……。お酒を介した様々な光景を女性の書き手が綴った連作エッセイ集。

タイトルから、自分の犯してきた酒の席での失敗を上回るくらいの懺悔を期待したのだが、それほどでもなかった。ちぇっ。
それよりもやはり飲まない人はそういう目で酔っぱらいを見ているのね…と、ぞくりとした。

泥酔していれば、何かとんでもないことをやっても、記憶も実感も残らないから、後から思い返して罪悪感を感じることもないということだ。(中略)
だから酒飲みはみな、酔っている間に、好き勝手なことを言ったり、泣いたり、けんかしたり、裸になったりできるのか。
「下戸の悩み」(中島たいこ)より

ひぃーー。ごごごごごめんなさいー。
記憶は残らないけど実感は残ってるよ…。何か大変なことをしでかしてしまったという実感だけは残っていて、でももうそれをこと細かく聞く勇気はなくて、相手の態度で推し測っているのよ…。どの程度「やばいこと」だったかを。
多分、ゲロってたい子さんの服を汚してしまったA子さんも「何かをいたしてしまった」感覚だけは残っていて、どうにか許してもらいたくてケーキを焼いて持って行ったんだと思うんだけど、たい子さんの「げっ。げろっておいて食い物持ってくるか、普通?」という反応に、「ああああ。あたし相当なことをやったんだーーー」と肩を落として帰って行った気がするなぁ…。

とにかく飲んでタガが外れてしまう人間は一緒に飲む相手を相当選ばないといけない。
じゃないと、友だちはなくすし仕事には支障をきたすし大変なことになる。
やはり呑兵衛は呑兵衛としか飲んじゃいけない…というのが長年の経験から私が出した結論だが、それはもう間違いないと思う。

あとは、先の通り気が大きくなって、思ってもないことを言ってしまったりする。これがのちのち、一番辛い。そういうとき、
「だって、あなたあのとき、ああいったじゃない。」
そう言われても、困るのだ。なんていうか、その場の雰囲気というか…、そういう台詞がまわってきたもんやから…。
酒を飲まない人や、「ほどよく」酔える人は、よくこういう言う。
「酔ったときに言うことって、真実なんでしょ!」
そして怒る。
(中略)
それは…その場を盛り上げる役をマネージャーに命じられたからで…、だから、あの、あ、あれを言ったのは私ではなく、私が演じた誰か、なの!
「名女優」(西加奈子)より

わかる!!酔って吐いた暴言でどれだけの人を失ってきたことか…。
それが本音なんでしょ!と思われるのは痛いんだよねぇ…。いやもちろん言ってしまったことは残るものだから仕方ない、自業自得ではあるんだけど、でもそれが自分の一番深いところにある「本音」と思われると、それは違うんだよなぁ。
なんかここを押されるとこう反応する、みたいな…ある意味「反射」みたいなものだから…。それが本心っていうわけじゃないのよー。

私は人見知りで、かたく心を閉ざし、くよくよし、ほとんどのことに興味を持たずに過ごしている。
(中略)
酒を飲むと、気持ちがぱーっと開く。知らない人でも話せるようになり、閉ざしていた心がスーと開き、くよくよしなくなり、しらふならまったく興味の持てない他人の話が、ものすごく意味のあるおもしろいものだと知る。たのしくなくて、つまらない、好きになれない自分は、酒が退散させてくれるのである。
「損だけど」(角田光代)より

飲みはじめたら、途中でやめるということができないのである。どうしてもどうしても、できない。
(中略)
そして、とことんへの過程で、記憶がなくなるのである。ある一定量飲むと、その後のことを覚えていない。
(中略)
前の日のことが思い出せないと、従来の私の「くよくよ」部が活発に活動をはじめる。
だれかに失礼なことを言ったんじゃないか。失礼なことをしたんじゃないか。食べものを口からこぼしたりグラスを割ったり、無様なことをしたのではないか。お金を払っていないのではないか。好きでもない人にべたべたさわったりしたのではないか。くよくよ、くよくよと考え、消えたいほどの暗い気持ちになる。昔は、いっしょに飲んだ人に、上記のようなことはなかったかいちいち訊いていた。だいじょうぶ、とみんなが答える。なかったよ、じゃなくて「だいじょうぶ」。その返事がまたこわくてくよくよする。
「損だけど」(角田光代)より

え?これ私のことじゃないの?
あまりにも同じすぎて大笑いしてしまった。そして笑いながら、「角田さん、ちょっとやばいかもよー。それはちょっとやばい領域なんじゃないかー?あ、それはあたしもか!」と思った。
いろいろじたばたした挙句、「でもしかたない。必要なのだから。」という、開き直りのようなあきらめの境地に今いるというところまで一緒で、シンパシー。覚えてないけど何とはなしに幸せな感覚だけ残ってるから、ま、いいか。わかるー。

全体としてはそれほど…でもないアンソロジーだったんだけど、最後の角田さんのエッセイが読めたから良かったなー。
あ、あと室井さんもよかった。包容力があるなーこの人は。