りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

憧れの女の子

憧れの女の子

憧れの女の子

★★★★★

「次は女の子を産むわ」そう宣言して産み分けに躍起になる妻。「本当にどうしても女の子を産まないと駄目なのか」妻の意志に、違和感が濃くなってゆく夫。お互いに心揺れる日々を過ごすなか、新たな命を授かる。果たして、その性別は?そして、夫婦がたどった道は―(表題作)。男女の日常に生じたさざ波から見える、人間の愛おしさ、つよさ―。深々とした余韻が胸に響きやまぬ傑作五編。

なかなかに面白かった。想像以上。
どの作品にも男女の性差の違いというものが描かれているのだが、嫌な感じがしない。意地悪すぎず甘すぎずベタつかないところが良い

「憧れの女の子」
2人の男の子がいる家庭で妻が「次は女の子を産む」と宣言する。
産み分けのために病院に通い、確実に女の子を妊娠するために「Xデー」を計算し、「無駄打ちはしない」と言い切る妻。
妻の産み分けへの情熱を見せつけられるたびに違和感を感じ気持ちが萎えていく夫。
そんな心の隙をねらったように職場の若い女の子が彼にモーションをかけてきて…。

題材からしてじっとり嫌な話になりそうなのだが、そうはなっていない。
猪突猛進の妻の言動は読んでいてひやひやするのだが、しかしその豪快さがなんだか気持ちいい。
そして煮えきらない夫もどこか憎めなくてかわいらしい。
ラストはある意味ホラーだが(!)がははと笑える明るさがある。

「ある男女をとりまく風景」
性差によって受ける印象がこうも変わるかと思うと、男とはこうあるべし、女とは…というのに無意識のうちに囚われていることがわかる。してやられた。

「弟の婚約者」「リボン」も面白い。
嫉妬したり疑心暗鬼になってしまうのはきっと自分を守りたい気持ちによるものなのだろう。
悪意と善意に間をゆらゆらしながら人間は生きていくのだなぁ…。

「わたくしたちの境目は」
これはまたなんと言ったらいいのだろう。
妻を病で亡くした夫が、息子家族と一緒に温泉旅行に行く。ただそれだけの話なのだが、伴侶を亡くした寂しさと喪失感、それを乗り越えてできるだけ周りに迷惑をかけずに生きていこうとする毎日が胸に迫る。
軽いだけじゃなくこんな話も書けるというのは凄い。