りつこの読書と落語メモ

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世界を回せ

世界を回せ 上

世界を回せ 上

世界を回せ 下

世界を回せ 下

★★★★★

1974年夏。ニューヨーク。一人の若者が、空に踏み出した。世界貿易センターのツインタワー間で、命綱なしの綱渡り。その奇跡の行動が下界に魔力を及ぼしたかのように地上では、出自も年齢も環境も異なる人々がひそかにつながりはじめる―全米図書賞・国際IMPACダブリン文学賞受賞作。

世界貿易センターのツインタワーの間に張られたワイヤーの上を一人の男が足を踏み出す場面から物語は始まる。
このシーン、写真で見たことがあるし、映画にもなっている。
この男、フィリップ・プティという大道芸人が主人公なのかと思ったらそうではない。

いろいろな人たちが物語には登場する。
アイルランド人の兄弟。
弟のコリガンは12歳の時に浮浪者たちに自分の毛布を与え彼らと一緒に煙草をふかし酒を飲むようになる。彼は深いそして独自の信仰心を持っていて困った人たちを放っておくことができないのだ。
後にコリガンはニューヨークに住み、自分のアパートのカギを開けっ放しにして売春婦たちにトイレとコーヒーを与え、彼女たちの「天使」になる。
そんなコリガンのことが心配でならない兄は、コリガンが売春婦たちに利用されていることに苛立ち、麻薬や暴力と隣り合わせに暮らすことに恐怖を抱きながらも、コリガンのもとを離れることができずにいる。

コリガンを慕う売春婦たち。その中には母子で売春婦をしている者もいる。
コリガンの兄の視点で語られている時には危うさと醜悪さしか感じなかったが、売春婦の一人ティリーの語る物語を読むと、彼女らには彼女らなりの事情があり暮らしがあり、めちゃくちゃだけどすべてを否定する気にはなれなくなる。

他にも、子どもをベトナム戦争で亡くした母親たち、気力を失った判事、落ちぶれた芸術家夫婦、ハッキングやタグ探しのスリルでしか生きている実感を得ることができない若者など、大勢の人たちが登場する。

これらの生まれも育ちも違う人たちを、世界貿易センターのツインタワーの綱渡りという度肝を抜くような出来事が彼らを繋いでいく。

金持ちも貧乏人も、差別を受ける側も差別してしまう側も、それぞれに矛盾をかかえながら生きている。そしてそれぞれが世界を回している。
一つ一つの出来事は決して大きなことがらではない。しかしそれらの切り取り方が絶妙で、生きるってこういうことだよな…と納得させられてしまう。
ニューヨークという街の魅力もたっぷり。素晴らしい小説。