りつこの読書と落語メモ

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パウリーナの思い出に (短篇小説の快楽)

★★★★★

幻影の土地に生まれた真の幻想作家ビオイ=カサーレス、本邦初の短篇集。愛の幻想、もう一つの生、夢の誘い、そして影と分身をめぐる物語。

とてもよかった。「モレルの発明」よりは小粒だけど、エキスはたっぷりだしとても読みやすい。
幻想ともSFとも奇想とも一味違う独自の世界観。感情が一つの層をつくって幻視を見せるような…。

・パウリーナの思い出に
「ぼく」がずっと愛してきたパウリーナ。幼いころからずっと一緒で、気恥ずかしいような関係がそのまま続いていた。当然二人は結婚するものだと思っていた。
それがある日「ぼく」の家でパウリーナがモンテーロと出会ったことで運命が一転する…。

「モレルの発明」に近いものを感じる。
一方的な思い込みとも思える「ぼく」の愛情。
「ぼく」を訪ねてきたパウリーナは彼のねじれた愛が見せた幻影だったのか。あるいは彼女の深い想いが「形」として残っていたのか。
あっという間に物語が展開し、目を見張っている間に思いもしない方向に着地する面白さ。

・二人の側から
ここでもまたこの世とあの世が交錯する。でも今度は何の情緒もなく…。っていうのが面白い。

・墓穴掘り
普通にミステリー、っていうのに驚き。でも何から何まで妙にわかる…。もしこの夫婦のように追い詰められた状況だったら、私はこの妻のようにふるまってしまうような気がするのが怖い…。
そしてたいした罪悪感も持たず、たいした危機もなく、なんだどうってことなかったじゃないかと思っているところに、こんなことがおきて…。ぞぞぞ。

・大空の陰謀
これはまた今までの作品と違ったSF色の濃い作品。SFとして見たらありがちなんだけど、情緒的な部分が過剰に素晴らしいのでそれが異彩を放っているというのが独自だ。

・雪の偽証
これも古典的なミステリーのようなストーリーでありながら、何か違う次元で展開しているという独自な物語。素晴らしい。