りつこの読書と落語メモ

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春にして君を離れ

★★★★★

優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバクダードからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる……女の愛の迷いを冷たく見すえ、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。

なんて意地が悪くて恐ろしくて悲しい話書くんだクリスティは…。
最初はジョーンの独善ぶり嫌な女ぶりが鼻についていたのだが、最後まで読んでこれは他人事じゃない自分ももしかしたら…と足元をすくわれるような気持ちになって、ぞぞぞ…。

こんな妻、母だったらたまらないけど、それを「かわいそうなジョーン」と呼んで最後まで見て見ぬふりの夫も嫌だ。これは優しさではないよ…。残酷だなぁ。

ジョーンの語りのパートでは夫ロドニーのことが好きだったのだ。
子どもたちが父親に懐くのも無理はない。こんな母親だけど父がこういう人で良かった。それだけが救いだと思っていた。
だけど最後まで読んで、そういう図式にしてしまったのは、ロドニーの側にも原因があって、むしろロドニーはそうしたかったのではないかと思った。
そう考えると、身勝手にしか見えなかったジョーンが気の毒にも思えてくる。

真実は見えているのに積み上げてきたものを壊す勇気が持てないというのが、すごくよくわかる…。
「夫婦」「家族」というのは案外脆い土壌の上に積みあがっているものなのかもしれない。
だからこそ見たくないものを見せられた感じがして、とても恐ろしかった。