りつこの読書と落語メモ

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移民たち

移民たち (ゼーバルト・コレクション)

移民たち (ゼーバルト・コレクション)

★★★★★

『移民たち 四つの長い物語』
 異郷に暮らし、過去の記憶に苛まれる4人の男たち……医師、教師、大叔父、画家……それぞれの生と死が、哀切を込めて語られる。

素晴らしい。 どこまでも丁寧に詳細に綿密に語られ、ところどころに印象的な写真が挟まれているので、これはルポなのかしら?と思うのだが、しかしルポでもノンフィクションでもない。
以前読んだ「アウステルリッツ」同様、これは「ゼーバルト」というひとつのジャンルなのだと思う。

祖国を離れて移民として生きてきた人たち。目を背けていた残酷な出来事が国を離れた彼らを追いかけてきて追い詰めていくのが辛い。
戦争、ユダヤ人虐殺、人種差別。故郷を離れた理由はさまざまだが、決して出たくて出たわけではない、出なければいけないやむにやまれぬ事情があり、またそこには「我が子だけは逃がしてやりたい」という親の犠牲の上に成り立っていることも多い。

彼らの死についてゼーバルトは決して感傷的に描かない。「彼は消えた、永遠に」の一言で済ませてしまったりする。
しかしそのかわり彼らの足跡を丁寧に調べ、彼らの足取りを追い、故郷を訪ね、人々の話を聞き、丁寧に記録する。まるでそれは生前の彼らから直接辛い話を聞くことをせずにいた自分への贖罪のようでもある。

また、ユダヤ人虐殺の歴史を簡単に過去のものにしてしまった自国ドイツへの強い批判の気持ちも伝わってくる。
ドイツがしたことを忘れてはいけない、自分へ決して忘れさせないというゼーバルトの信念に圧倒される。

出会った大型船の女性船長の言葉が印象的だ。

愚かさほど切りのないものはない、そしてバカほど危険なものはない。

決して明るい話ではないのに、読み終わった後印象に残っているのが、「蝶男」という不思議。
ルポのようなどちらかといえば硬質な文章の中に時々これがフィクションであることを思い出させるように登場するのが、網を持って蝶を追いかけている蝶男なのだ。
そんなところにゼーバルトの優しい人柄があらわれているように思う。