りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

大聖堂

★★★★

12世紀のイングランド。、放浪の建築職人トムは、衰退した壮麗な大聖堂復活をめぐる波瀾万丈のドラマに巻き込まれていく……折りしも、イングランドに内乱の危機が!

12世紀のイギリスの架空の町、キングズブリッジに大聖堂を建てるという半世紀がかりの大事業に取り組んだ人々を描いた作品。
大聖堂を建てることを夢見て妻子を連れて旅を続ける石工トムと、理想に燃えるキングズブリッジ修道院の院長フィリップスを中心に、王権の争い、教会内の権力争いに巻き込まれる人たちを描く。
上、中、下と3巻に渡る超大作だが、さすがのリーダビリティですいすい読める。

貧しいけれど気骨があり腕も確かな石工トム。
両親を目の前で兵士に惨殺され修道院で育てられ熱い信仰心を抱いているが、現実と向き合う実際的なところもあり、権力争いの中で時には策略をめぐらすことも厭わないフィリップス。
伯爵令嬢で何不自由ない生活を送っていたのに、父親が謀反を働いたため弟と城を出て彷徨うはめになったアリエナ。
アリエナに婚約破棄されながらも彼女への執着を捨てられず執拗に追い回すウィリアム・ハムレイ。領主の息子であるウィリアムは策士の母とともにのし上がっていき、アリエナだけでなくフィリップスや村の人たち、そして大聖堂の建立を妨害し続ける。

主人公となるトム、フィリップス、アリエナ、ジャックは魅力的だがそれぞれに弱い部分や汚い部分も持っていて、善だけでないところが面白い。
また、根底には宗教があるわけだが、圧倒的に信じる人間とそれをうさんくさいと思う人間が登場するところに物語の厚みがある。

しかし悪人があまりにも悪人過ぎて読んでいてそこが辛かった…。
フィリップスが知恵を絞って軌道にのせた教会運営も、アリエナが持ち前の知恵と度胸で形にした羊毛業も、トムたちの襲撃によってめちゃくちゃにされる。
暴力が「力」として機能するがゆえに、ウィリアムはどんな暴挙を犯しても決して裁かれることはなく、むしろ王には「重宝」に思われてどんどん出世していく。
善悪が正当に裁かれないような時代は嫌だとつくづく思った…。

暴力的な描写も多くて読んでいて辛かったけれど、圧倒的なフィクションを読んだという満足感はたっぷりだった。