りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ふる

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★★★★★

池井戸花しす、28歳。職業はAVへのモザイクがけ。誰にも嫌われないよう、常に周囲の人間の「癒し」である事に、ひっそり全力を注ぐ毎日。だが、彼女にはポケットにしのばせているICレコーダーで、日常の会話を隠し録るという、ちょっと変わった趣味があった―。

ハートに直接ぶつかってくるような西加奈子ワールド。これが好きで好きで…。
読み始めればすぐに、訳の分からないでもどこか懐かしく馴染みのある世界に引きずり込まれて、わーい!とスキップしたいくらい。
ストーリーそのものより、あ!わかる!同じ!と胸のすくような宝物にしてとっておきたいような文章がざくざく。たまらない。

一口飲むと、叫びだしたくなるくらい美味しかった。季節問わず美味しい、このビールという飲み物はなんだ、天才か、と思う。
「天才か。」
声に出す。

最初に思ったのは、尻の穴がこれほど丸出しなのだな、ということだった。道行く犬や通り過ぎる野良猫などもそうだったが、こんなに近くで、堂々と見せてくれるものなのかということに、驚いた。

とにかく誰かを傷つけたり嫌われたりしたくなくて、いつも周囲の顔色を窺いながら「癒し系」として生きる花しすという女性が主人公。
嫉妬したり見下す気持ちが自分の中に芽生えるたびにそこから目をそらしあくまでもふわふわと生きようとする花しす。
しかしその一方で、ICレコーダーで周囲の会話を録音して家に帰ってきてからそれを聞いたりしている。
お気楽そうに見える花しすの中にある不安や孤独がその行為に現れている気がする。
さらさらと通り過ぎていくだけの日々をつかみたい。心もとない周囲との関係を確かなものにしたい。その気持ちは今を生きる人にはとてもリアルなものなのではないだろうか。

特に大きな事件が起きるわけでもなければ何かが大きく変わるわけでもない。
でも花しすが最後に至る境地が素敵で温かい気持ちになる。
誰かを傷つけて誰かに傷つけられても大丈夫。私たちは同じなのだから。祝福されているのだから。