りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

何者

何者

何者

★★★★★

「あんた、本当は私のこと笑ってるんでしょ」就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良。学生団体のリーダー、海外ボランティア、手作りの名刺……自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす、書下ろし長編小説。

痛面白い。
作者自身が就職活動を抜け出したばっかりで決してそこから遠いところにいるわけではなく、おそらくはまだその渦中にあるだろうに、こんな風に描いてしまうところが凄い。
作者自身が、就職活動をしている自分やまわりを観察しながら、あれこれ感じ悩み苛立ちながら、答えらしきものに近づこうともがいている姿が浮かび上がる。若い青いくだらないと切り捨てる人もいるだろうけど、私は大好きだ。

どういう会社なのかよくわからないまま、名前やイメージで受験して、常にここが第一志望という顔をしなければならなかったり。
志望の動機をどこかで借りてきたような言葉で語らないといけなかったり。
面接で不合格になれば自分自身を全て否定されたような気持になり、合格した友だちを羨み、就職活動する人間をバカにする人に苛立ち…。
主人公拓人の視線は読んでいる私とぴったり重なるのだが、だからこそ最後のシーンでは一緒に血を流して痛がるはめに陥る…。

自分を飾らず体当たりでぶつかっていける人、斜に構えて常に逃げ道を確保しながらも違う道を選ぶ勇気もない人、肩書や情報で武装しながらみっともない自分で勝負することをいとわない人。

誰にも読まれたくない自分のダークな気持ちを吐き出すために、なぜ裏アカウントをとってtwitterでつぶやくのか。
そして検索したワードの履歴は汚い自分の履歴でもある。
今の時代のツールを上手に使いながらも、普遍的な若者の自意識や苦悩を描いている。祝直木賞
就職した作者からまたどんな作品が生まれてくるのか、楽しみだ。