りつこの読書と落語メモ

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ポートベロー通り スパーク幻想短編集

ポートベロー通り―スパーク幻想短編集 (現代教養文庫)

ポートベロー通り―スパーク幻想短編集 (現代教養文庫)

★★★★★

五年前に殺された女性の幽霊が、毎週ポートベロー通りに現れて殺人者に話しかける。その姿や声は、つれの妻には見えず聞こえない…。(「ポートベロー通り」)現実と幻想、過去と現在が縦横に交錯した超自然の世界をモチーフとした、幻想的な短編11作品を収録、ミステリアスなファンタジーの世界へ読者を誘う。

長年探し続けてきた短編ポートベロー通りをようやく読めた。
これは大学1年生の時に受けた英語のテキストだったのだ。
作者もタイトルも忘れてしまい、ただ干し草の上で遊んでいた時に針を見つけてしまい、それ以来「針」とあだ名がついた、というところしか覚えていなかった。
しかしこれが何年たっても気になって仕方がない。
テキストはすでに捨ててしまっていて、大学の時に一緒に授業を受けた友だちに聞いても誰もわからない。 でも試験前に誰かがこの話が載っている短編集を買ってきてみんなでコピーさせてもらったことがあったので、翻訳本が出ていることは確かだった。

とにかく手がかりが少なくて探しようがなかったのだが、なんとなくぼんやりと女流作家だったような記憶もあった。
最初の「干し草」のシーンがなんとなくアメリカ南部っぽい気がしたのと少し古めかしい雰囲気がしたのとで、フラナリー・オコナーカーソン・マッカラーズあたりじゃないかと思い、彼女らの短編を1冊ずつ読んでいこうかな、なんて思っていたのだ。

探し始めたころにネットで探したときは何一つひっかからなかったのだが、ふと思いついて検索してみたら、この「ポートベロー通り」について書いてある記事を見つけたのだ!
これを見つけた時の衝撃といったら!
だって作者が私の好きなミュリエル・スパークだったのだ!なんということ!
全然南部じゃなかったなぁ…と苦笑い。

すでに絶版になっていたのだが、幸運なことにアマゾンのマケプレで出ていたので、定価より高かったけれどすぐに購入。
探し続けて20うん年、ようやく読めた、というわけ。
って話が長いよ!

11篇の短編がおさめられている。
現実と幻想、正気と狂気が入り混じった、いかにもスパークらしい意地の悪い作品たち。
そうとわかって読むと確かにこれはスパークだ。

「遺言執行人」
作家だった叔父の全財産を受け継いだ姪の「わたし」は、原稿類はすべて大学の手に渡ってしまったのだがただ一つ未完だった作品だけは手元に残す。 叔父の筆跡の解読もできる「わたし」は、叔父の残したノートをもとに、この未完の作品を自分の力で完成し価値を高めようと企てたのだ。
しかしそのノートを読んでいるうちに驚くべきことに出会うのである。
叔父が今その場にいるように、彼女に向けてメッセージを残していたのである。しかもそのメッセージは前の日に読んだときにはなかったものだったのだ。

叔父も曲者なのだが、読んでいてなによりこの「わたし」自身が不気味なのだ。
生真面目で禁欲的に見えてそうではない。
誠実な働きぶりの裏に何か含むものがあるようで信用できない。
増えていくメッセージも不気味なのだが、この叔父と姪の関係についてもなにやら気持ち悪さが残る、いや〜な感じの作品。

「アリス・ロングのダックスフント」も気味の悪い作品だ。
五匹の犬の世話をするハミルトンという老人。雇い主のアリスに感謝をして犬の世話をしているようだったのだが、ある日とんでもない行動をおこす…。 人づてに告げられたショッキングな光景が目に焼き付く。

「ポートベロー通り」
仲良しの友達4人が干し草の上で遊んでいた時に、主人公の「わたし」が干し草に手を突っ込んで「針」を当ててしまい、指から血が出る。以来「わたし」は「針(needle)と呼ばれるようになる。
その「わたし」がポートベロー通りに現れて、その時からの友だちジョージに話しかけるのだが、話しかけられたジョージは驚いてあわてふためく。 なぜ驚いたかといえば、「わたし」は死んでいたから…そして一緒にいた妻キャサリン(彼女もその時の4人組の一人)には「わたし」の姿は見えず…。

そうか。こんな話だったのか…。
学生時代の自分がなぜこの物語に魅了され、あれはなんだったんだろうかと気になり続けていたのか、こうして読み終わってもよくわからない。でもこのよくわからなさがじっとりと胸に残っていたのだろう。
子ども時代からの友だち、押し付けられた秘密、そして殺されて漂い続ける自分。
この独特の世界が私をとらえて離さなかったのだなと思うとなんだか感慨深い。

それにしても残念だったのが翻訳…。私はあまり翻訳にはうるさくない方なのだがこれはちょっと…。
スパークはほとんどが絶版。新訳で出してくれないかなぁ。