りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

虫樹音楽集

虫樹音楽集

虫樹音楽集

★★★★

話は学生時代、35年以上前にさかのぼる。サックスプレーヤー通称「イモナベ」は『孵化』と『幼虫』という二つのライブを全裸で演奏して以降、精神に変調を来したとの噂とともにジャズシーンから消えてしまったはずだった。ところが1990年、小説家になりたての私は『変態』と題されたライブのチラシを見つけてしまう。そして現在―。もう一度イモナベの行方を尋ねた「私」が見たのは、絶対にありえない戦慄の風景だった。

どこからがフィクションでどこまでが本当のことなのだろう?となんどか検索しかけて、そんな無粋なことはやめようと我慢した。その曖昧模糊こそがこの小説の醍醐味なのだ、たぶん。というか少し前はネットで検索なんかできなかったものだから、なんだかよくわからないままに読み終わることが多かったじゃないか。そもそも小説とはそういうふうにして読むものなんじゃないか、などと思った次第。

虫への「変態」を実践したサックスプレーヤーの物語をベースに、頭に寄生虫を飼ったり変身した虫がスカイツリーをのぼったり…摩訶不思議な物語やエッセイがつづられる。
クワコー、文芸漫談、フルート、ジャズ、大学教授。この振り幅が奥泉さんの魅力だなぁ…。怖がるところなのか笑うところなのか分からず呆然としながらも楽しんだ。