複製された男
- 作者: ジョゼサラマーゴ
- 出版社/メーカー: 彩流社
- 発売日: 2012/10
- メディア: 単行本
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彼がオリジナルで、自分が複製された男なのか!孤独な現代人の苦悩とアイデンティティの危機をミステリー仕立てで描いたポルトガルのノーベル賞作家サラマーゴの傑作。米国で映画化。
この間読んだ「あらゆる名前」もそうだったが、この作家は哲学的というか観念的な事柄を抑揚のない文章で描くのでなかなか読みづらい。最初に読んだのが「白の闇」で、そのテイストを期待して読むのでちょっと「え?」と驚くが、おそらく「白の闇」のほうが異質な作品なのだろうと思う。
主人公のテルトゥリアーノ・マッシモ・アフォンソは中学校の歴史教師。ある日、同僚の数学教師から勧められたビデオをレンタルしてきて見てみると、自分に瓜二つの男が脇役で出ているのを発見する。
離婚以来あらゆることに意欲を失いうつ状態になっていたテルトゥリアーノは、この俳優のことが頭から離れず、誰にも内緒でこの俳優のことを調べ上げ、ついには連絡して会うことになるのだが…。
主人公テルトゥリアーノが魅力に乏しくさらにコミュニケーションが取りづらい人物で、それを強調するかのように、改行のない文章で感情のかよいあわない会話が綴られていく。
しかし考えてみればそれはこの主人公に限ったことではなく、我々自身も本音を隠し相手の真意をとらえられないまま腹のうちをさぐりあうようなことをしているのだ。
自分と瓜二つの人間と対峙することで、自分自身の存在が脅かされたと感じ思わぬ行動に出る二人。
動きの乏しい前半と、話が大きく動く後半の対比が見事だ。
いやしかしほんとにすごい話を書くなぁこの人は。ラストがもうたまらない。