りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

猛スピードで母は

猛スピードで母は

猛スピードで母は

★★★★★

文學界新人賞受賞作「サイドカーに犬」と芥川賞受賞作「猛スピードで母は」がカップリングされた長嶋有の第1作品集。

初めて読んだ長嶋有の小説だが、とても面白かった。
サイドカーに犬」「猛スピードで母は」の二作が収められている。

サイドカーに犬」は、語り手の女性が小学4年生の夏休みに体験した、父の愛人との共同生活を思い出すという物語。
父と母の夫婦喧嘩が続いたある日、母が家出してしまう。
父と弟との3人暮らしが始まり徐々に家が荒れ冷蔵庫の中のものが腐ってきたある日、イカした自転車でふいに現れた洋子さん。
なんの説明もなく一緒に暮らし始めた彼女はどうやら父の愛人らしい。

淡々と家事をこなし煙草を吸いながら黙々と本を読み、時々「私」や弟を外に連れ出す洋子さん。
大人の間で何が起きているのか理解できないまま、「私」は洋子さんとの生活に徐々に慣れていくのだが…。

子どもには大人の事情は説明されないし実際何が起きているのかはわからない。
でも微妙な空気とか距離というのは敏感に感じ取り、大きくは間違わずに振舞えるものなのだ。
こういう経験があるわけではないけれど、なんとなくこの感じは覚えがある。
懐かしいようなちょっと痛いような不思議な読後感があった。

表題作の方は、小学5年生の慎と母親の1年あまりの生活を描いた作品。
こちらは私にはとてもリアルだった。私も母子家庭で育ち、母が帰ってこない夜に、事故に遭ってしまったのかもと不安で涙にくれ、しかししばらくしてからもしかして私は棄てられたのかも…と思った経験がある。
そのことを恨んでいるわけではないのだが(結局棄てられたわけではなかったし)あの時感じた寄る辺なさというのは自分の中に根付いている。
大人らしくない親と二人きりというのはこどもからすれば結構ワイルドなことなのだ。
今自分が親の立場になってみれば、おかーさんだって頑張ってんのよと思うけどね。

なぜこんなにも子どもの時の気持ちをリアルに描けるのだろう。おそるべし。そして簡易な文章だけど計算されているように思った。とても良かった。