酒国―特捜検事丁鈎児の冒険
- 作者: 莫言,藤井省三
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1996/10/25
- メディア: 単行本
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酒国という都市で、権力者たちが人肉料理を食べているという情報が入った。特捜検事ジャックは早速酒国に潜入するが…。混迷する現代中国を、魔術的リアリズムにより描き出した衝撃的作品。
人肉事件の調査のため酒国に入ったジャックが酒と女と食い物の強烈な洗礼を受けて崩壊していくという物語が主軸にあるのだが、途中その物語を執筆中の莫言が登場し、莫言に自分の書いた小説を送りつけてくる院生季一斗との往復書簡、季一斗が書いた短編と、物語は3重構造になっている。
最初は鬱陶しく感じられた季一斗の短編が途中からどんどん面白くなり莫言先生の物語を凌いでいく。物語が物語を飲みこむ面白さがたまらない。また季一斗に対して莫言が「怒りをそのまま作品にぶつけるな」「神秘と伝奇に工夫しろ」とアドバイスするのが面白い。
中国という強烈な国の中にいてさまざまな規制がある中で、幻想とユーモアのベールに包んで物語を描き続ける莫言の切実な思いが伝わってくる。 それにしても、中国人が脚があるもので食べないのは椅子だけ、などと言われるのがうなづけるほど、食に対する強欲さが凄い。
今まで読んだ莫言作品では貧しい人たちが描かれていたので、常に飢えている印象があったが、かの作品では権力者たちが自分の力を体現する方法のひとつとして、酒や食を利用する姿が描かれる。
調査に入ったジャックがどんどん強い酒を出されメタメタにされていくのは、そら恐ろしくもある。
そしておぞましい描写もあるが、よだれが出るほど美味しそうでもある…。 思っていたよりテンションの高い作品ではなくて、いろいろ含みを持たせた切実な作品だった。