りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

無声映画のシーン

無声映画のシーン

無声映画のシーン

★★★★★

この30枚の写真は、ぼくが切なく楽しい少年時代に帰る招待状だった。『狼たちの月』『黄色い雨』の天才作家が贈る、故郷の小さな鉱山町をめぐる大切な、宝石のような思い出たち。誰もがくぐり抜けてきた甘く切ない子ども時代の記憶を、磨き抜かれた絶品の文章で綴る短篇集。

とてもよかった。最初のうちはこれは私小説?どこまでがフィクション?なんてことが気になっていたのだが、途中からそんなことはどうでもよくなった。
事実であろうがなかろうがそんなことはどうでもよく、1つ1つの写真から浮かび上がってくる子ども時代の風景、自分の底に流れていく日々。
鉱山の町で暮らした経験があるわけではないのに、自分もそんな日々を過ごしたように懐かしい。
この子ども時代に特有の全体がわからない感じや何かを隠されてる感じがとてもリアルなのだ。

一枚の写真を元に当時を思い出すというスタイルが読んでいてその写真を想像させるので、読み終わってからふとそのシーンが絵として甦ってくるという不思議な読後感。
時間が経つほどに印象が濃くなっていくといき、あれは濃密な小説だったのだなと気付かされる独特な作品だ。