りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

マザーズ

マザーズ

マザーズ

★★★★★

同じ保育園に子どもを預ける三人の若い母親たち—。家を出た夫と週末婚をつづけ、クスリに手を出しながらあやういバランスを保っている“作家のユカ”。密室育児に疲れ果て、乳児を虐待するようになる“主婦の涼子”。夫に心を残しながら、恋人の子を妊娠する“モデルの五月”。現代の母親が抱える孤独と焦燥、母であることの幸福を、作家がそのすべてを注いで描きだす、最高傑作長篇。

読む気はしないなぁとずっと避けてきた作家なのだが、この作品は読んでみようと思ったのだ。
とても面白かった。この内容を「面白い」と言ってしまうことに抵抗があるが、しかし凄まじく良く書けていると思う。凄みを感じる。

同じ保育園に子どもを預ける若い母親3人。
家を出た夫と週末婚を続け、作家としてもそれなりに成功をおさめ、子育ても楽しんでしているように見えるユカ。道徳観念もあまりなく「それはどうよ」と思われるような言動もあるが、楽しんで子育てをしているように見える。
しかし、クスリに依存し摂食障害があり、その内面はぞっとするほど暗い。

まじめでかわいい奥さんの涼子は、乳児との生活に疲れ果て一触即発の状態。
最も理解してほしい相手(夫)に、「お前はもう少し家庭的だと思っていたのに」という言葉を投げつけられ、口やかましい母に頼ることもできず、完全に孤立してしまっている。

売れっ子モデルの涼子はきちんと仕事もこなし家事もし娘のこともきちんとしつけているが、レストラン経営がうまくいかない夫はプライドを傷つけられ部屋にとじこもり涼子に心を閉ざし離婚をほのめかす。
バランスをとるつもりで不倫をするが、その相手との子どもを妊娠してしまい…。

この3人が出会い、それぞれに距離を保ちながらも育児の悩みを語り合い一緒にご飯を食べたりしていわゆる「ママ友」になるのだが、しかしそれぞれの家庭も本人たちも崩壊寸前なのだ。

母親になるということはこんなにも大変なことなのか?と恐れをなす人もいるだろうなぁと心配になるくらいヒリヒリと痛い作品だ。
ドラッグ、不倫、虐待とかなり過激な内容だし、3人ともそれぞれになかなかのツワモノなので好きになれる人物像ではない。特にユカは身勝手で病的でぞっとするような人物なのだが、おそらくユカに作者の姿は投影されているのではないか、という気がする。

泣き止まない子どもに暴力的な気持ちを抱いたことが何度かあったことも思い出す。
特に一人目の時は、自分がちゃんとしないと!という気持ちが強くて、しんどかった。まわりに、ちゃんとしたお母さんをやっているか、と監視されているような気持ちになることもあった。
それでも私の場合は、育児に協力というようなレベルではなく、私と全く同じぐらいの…もしかするとそれ以上の真剣さで一緒に子育てをしてくれた旦那がいたので、ノイローゼになることもなく、育児を楽しむことができた。
子どもは大勢で育てるものだよ…。一人で抱えちゃだめだ。

物語は最後に大きく動き、もう呆然…。
母であることは、もう言いようもないほど幸福で、しかしとてもつもなく不自由で、時と場合によってはありえないほど孤独なものなのだ。
よくぞここまで書いたと思う。あっぱれだ。でもこれから子どもを産もうかと思っている人にはオススメしない。