りつこの読書と落語メモ

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琥珀捕り

琥珀捕り (海外文学セレクション)

琥珀捕り (海外文学セレクション)

★★★★

ローマの詩人オウィディウスが描いたギリシア・ローマ神話世界の奇譚『変身物語』、ケルト装飾写本の永久機関めいた文様の迷宮、中世キリスト教聖人伝、アイルランドの民話、フェルメールの絵の読解とその贋作者の運命、顕微鏡や望遠鏡などの光学器械と17世紀オランダの黄金時代をめぐるさまざまの蘊蓄、あるいは普遍言語や遠隔伝達、潜水艦や不眠症をめぐる歴代の奇人たちの夢想と現実―。数々のエピソードを語り直し、少しずらしてはぎあわせていく、ストーリーのサンプリング。伝統的なほら話の手法が生きる、あまりにもモダンな物語。

これを心から100%楽しんで読める人を尊敬するなぁ!
ギリシャローマ神話、オランダ絵画、アイルランドの民話、キリスト教の聖人、顕微鏡、望遠鏡とテーマは多岐にわたるのだが、Aから順に数々のエピソードやほら話、薀蓄が語られていく。
それはまるで千夜一夜物語のようでもあり物語の玉手箱のようでもあり百科事典のようでもある。

章ごとに完全に独立しているわけではなく、物語は微妙に重なりあって紡がれる。
作者の父がものすごいストーリーテラーで、その父が語るのがジャックの物語。
ジャックがとある屋敷で女主人に次々と面白い話(しかも本当の物語)をするのだが、その話はおとぎ話のようでもありほら話のようでもある。このジャックの物語が時折織り込まれ、散漫になった読者をぎゅううっとまた物語の中に連れ戻してくれる。

ギリシャ神話に出てくる神様たちは好色で嫉妬深くて残酷だ。子どものころから「神様なのになんで?」と疑問だったんだけど、これを読んでまたその「なんで?」が蘇った。
またキリスト教の聖人たちの話もたくさん入っているんだけど、こちらも過激で俗物的に思える。聖人たちは私利私欲を捨ててはいるのだろうけど、信者を獲得するためにこれ見よがしに奇蹟を行ったり(空中浮揚や病気を治したり願いを叶えたり)するのが、物語としてみたら面白いのだが、心情的には少し受け入れがたい。

また全てに共通するテーマとも言えるのが「琥珀」。
確かにえもいえぬ魅力があるよなぁ。琥珀って。その色合いといい深遠さといい不可思議さといい。
これが要所要所にあらわれて物語をつないでいく。

また、オランダの文化や歴史、絵画についても、それはもう詳細に語られるのだが、その中に時々差し込まれる人魚の物語。これがとても魅力的だ。
そうか。オランダには人魚がいるんだもんなぁ…。なんて、妙な説得感がある。
特に、助けられた人魚が人間とともに暮らし絵を描くお話はとてもとてもよかった。

もっと物語性が高ければ私はうはうはになったと思うのだが、薀蓄の部分は淡々とした文章がまるで事典のようにこれでもかこれでもかと改行なしで続き、目がうつろに…。 薀蓄が続くと「無理かもしれない〜」と思い、ジャックの章や人魚の話になると「(これなら)いけそうな気がする〜」と思う。そんなアップダウンを繰り返しながら、結果的には結構楽しんで読んだ。