りつこの読書と落語メモ

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わたしの名は赤〔新訳版〕

わたしの名は赤〔新訳版〕 (上) (ハヤカワepi文庫)

わたしの名は赤〔新訳版〕 (上) (ハヤカワepi文庫)

わたしの名は赤〔新訳版〕 (下) (ハヤカワepi文庫)

わたしの名は赤〔新訳版〕 (下) (ハヤカワepi文庫)

★★★★★

1591年冬。オスマン帝国の首都イスタンブルで、細密画師が殺された。その死をもたらしたのは、皇帝の命により秘密裡に製作されている装飾写本なのか…?同じころ、カラは12年ぶりにイスタンブルへ帰ってきた。彼は件の装飾写本の作業を監督する叔父の手助けをするうちに、寡婦である美貌の従妹シェキュレへの恋心を募らせていく—東西の文明が交錯する大都市を舞台にくりひろげられる、ノーベル文学賞作家の代表作。国際IMPACダブリン文学賞(アイルランド)、最優秀海外文学賞(フランス)、グリンザーネ・カヴール賞(イタリア)受賞。

16世紀のイスタンブルで「優美」と呼ばれる細密画師が殺される。その死には細密画とイスラムの教義の関係が深く関わっているらしい。
「おじ上」は皇帝の命を受けて秘密裏に写本の製作を行うため、皇帝の細密画工房の名人絵師4名に作業を依頼していた。殺されたのはその中の一人。残る3名のうちの誰かが「優美」を殺した可能性が高い。

また同じころにカラという青年が「おじ上」に呼び戻され12年ぶりにイスタンブルに帰って来た。彼は「おじ上」の娘シュキュレに恋をしたために、「おじ上」の手によって遠方に追いやられていたのだ。
シュキュレはすでに結婚し2人の子をもうけているが、軍人である夫は戦に出たきり戻ってこない。夫の弟ハサンはシュキュレに想いを抱いている。
また12年ぶりに戻ったカラもシュキュレへの恋心を募らせる。

物語は「優美」を殺した犯人捜しとカラとシュキュレの恋の行方を主軸に、各章「わたしは○○」という書き出しによる一人称で語られていく。
物語を語るのはカラやシュキュレやおじ上、細密画師の蝶、オリーヴ、コウノトリ、工房の長であるオスマン棟梁、などの主要人物だけでなく、犯人、死者、馬、金貨、そして赤、となんでもあり状態。

窮屈なくらいの宗教心や親への忠誠心にとらわれながらも、自分と子どもたちの幸せを掴み取るために、策略をめぐらすシュキュレ。
ハンサムで才能にもめぐまれているけれど、少しお間抜けな主人公のカラ。(12年ぶりに再会を果たした初恋の女性に対して、調子に乗ってトンデモナイことをさせようとするなんて。おいおいおい!と言いたくなる。)

そして命が途絶えてもまだまだこの世に未練たっぷりで雄弁に語る死者たちと(このあたりがマジックリアリズムっぽい)と、過激なほどの宗教心を抱きながら(だからこそ?)平気で嘘をつき暴力もふるい時に殺人を繰り返す犯人。

イスラムの歴史や宗教に言及しながらも、エンタメ要素たっぷりで飽きさせない。
フツウの小説の三倍ぐらい濃密な小説だった。堪能しました。げふ。