りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

人質の朗読会

人質の朗読会

人質の朗読会

★★★★★

遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた。紙をめくる音、咳払い、慎み深い拍手で朗読会が始まる。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは人質たちと見張り役の犯人、そして…しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。

異国の地で人質になった8人が自分の人生を振り返り朗読する。語られるのは日常のほんのひとこま。
些細だけど、どれもその人にとっては大切な出来事。
名もなき人たちのそんな語りは普段であれば取り上げられることはないけれど、彼らは人質になり爆破され全員死亡し、この不思議な朗読会のテープが遺族たちに届けられる…。

暴力による無慈悲で不条理な死と、些細だけれど抱き締めたくなるような小さな日常の対比が素晴らしく、読み終わってからしばらく呆然…。
儚くもいとおしい。そんな普通の人々の人生。私たちのまいにち。