りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

罪悪

罪悪

罪悪

★★★★★

ふるさと祭りの最中に突発する、ブラスバンドの男たちによる集団暴行事件。秘密結社イルミナティにかぶれる男子寄宿学校生らの、“生け贄”の生徒へのいじめが引き起こす悲劇。猟奇殺人をもくろむ男を襲う突然の不運。何不自由ない暮らしを送る主婦が続ける窃盗事件。麻薬密売容疑で逮捕された孤独な老人が隠す真犯人。―弁護士の「私」は、さまざまな罪のかたちを静かに語り出す。刑事事件専門の弁護士が、現実の事件に材を得て描きあげた十五の異様な物語。世界各国を驚嘆せしめた傑作『犯罪』の著者による、至高の連作短篇集。ドイツでの発行部数30万部突破。ドイツCDブック賞ベスト朗読賞受賞。

前作に劣らず面白かった。
前作にあった「物語性」のようなものが本作では失われ、苦く救いのない話が多かったが、異様さや残酷さも含めて非常にリアルで、淡々とした語り口だが鬼気迫るものがある。
一作目の「ふるさと祭り」の後味の悪さといったら…。

残虐な事件を犯してもうまく法の目をかいくぐり普通のきちんとした生活に戻っていく人、不幸な生い立ちや無知から犯罪に巻き込まれてなすすべもない人、幸せになりたい一心で犯罪を犯す人。
どれも自分とは全く違う人間であると言い切ることはできない恐ろしさ。
また悪が裁かれることなくそのままうやむやにされる、そんな世界に自分たちは生きているのだ、と見せ付けられることの不安。

どこまでも冷え冷えとしているのだが、最終話で前作同様作者の素顔をチラッと見せるところが心憎い。