りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

ブエノスアイレス食堂

ブエノスアイレス食堂 (エクス・リブリス)

ブエノスアイレス食堂 (エクス・リブリス)

★★★★★

故郷喪失者のイタリア人移民の苦難の歴史と、アルゼンチン軍事政権下の悲劇が交錯し、双子の料理人が残した指南書の驚嘆の運命、多彩な絶品料理、猟奇的事件を濃密に物語る異色作!

凄かった…。もういきなり最初の一文にがつん!とやられ、ひーーとおののきながら一気読み。
しかも衝撃的な出だしとうってかわって、その後はこの素晴らしいブエノスアイレス食堂の歴史がアルゼンチンの歴史と共に淡々と語られる。

イタリアから移民としてやってきたカリオストロ兄弟は卓越した料理の腕前と生真面目な性格でどんどん出世し、ブエノスアイレス食堂を創設する。
天才的な料理人であるこの兄弟は、このブエノスアイレス食堂と「南海の料理指南書」という2人の料理のエッセンスを詰め込んだ料理本を残し、不幸な末路をたどる。 この2つの遺産を受け継いだものはこの食堂と料理本に魅せられるが、向かう先は必ず破滅なのである。
まるでこの2つの遺産が彼らに呪いをかけるがごとく…。

ブエノスアイレス食堂で出される料理の数々はどれも素晴らしくて、読みながらなんど唾をのみこんだことか。
しかし最後まで読むとそんな自分を空恐ろしくも感じさせられてしまうという、ものすごい仕掛け。
食べることは生と死に直結した行為であり、美味を求める本能というのは、かくも罪深いものなのだ…。

この凄まじい物語をまるでつまらない歴史を語るように淡々と描くというこの手法も凄い。アルゼンチン、おそるべし…。