りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

犯罪

犯罪

犯罪

★★★★★

一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の息子。羊の目を恐れ、眼球をくり抜き続ける伯爵家の御曹司。彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれた博物館警備員。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。—魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。高名な刑事事件弁護士である著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを鮮やかに描きあげた珠玉の連作短篇集。ドイツでの発行部数四十五万部、世界三十二か国で翻訳、クライスト賞はじめ、数々の文学賞を受賞した圧巻の傑作。

期待以上にすばらしかった!
淡々とした無駄のない文章で綴られるのはさまざまな犯罪なのだが、犯す理由もさまざまなら人となりもさまざま。
人間とはこうも弱くて複雑で罪深いものなのか。

こんな理由で?今このタイミングで?
疑念は晴れないのだけれど、一線を越えてしまった人たちは決して遠くはなく、もしかすると自分にもこういう瞬間が訪れるかもしれない…とぞくっとする。

中には最後まで真相や当事者の気持ちが明らかにされないものもあり、でも結局本人以外は知ることができないものなのかもしれない、という気持ちにもなる。
殺人をしたという事実はあっても、そこに悪意があったのかどうか、本人がどう思っているのか…わからないままに弁護士というのは頼まれれば弁護をするのだ…。それはすごく恐ろしいことにも思えるし、救いにも思える。

殺伐とした気持ちになる物語が多いなかで、最終話「エチピアの男」が思いのほか良くて温かい読後感。
作者の「気持ち」はどの作品の中でも明らかにはされないのだが、この物語が最後に収められていることで、そこにこたえがあるような気がして、救われる。