りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

死んでいる

死んでいる (白水uブックス―海外小説の誘惑)

死んでいる (白水uブックス―海外小説の誘惑)

★★★★

動物学者の夫婦が砂丘で撲殺された。夫の手はかろうじて妻の脚に触れていたが…二人の死体には海辺の生き物が群がり、肉を貪る…。無慈悲な死と冷徹な自然に、二人の愛も最期を迎えるのか?全米批評家協会賞受賞作品、『ニューヨーク・タイムズ』年間最優秀作品。

川上弘美の「大好きな本」で紹介されていて、読んだ本。 50代のある夫婦が惨殺されている。夫は全裸、妻は下半身裸で。

物語は2人の死を基点に語られる。
死体がどんなふうに腐敗していくのか。
2人はどんな人生を歩んできて今に至るのか。
なぜ2人はこんな死を迎えねばならなかったのか。
残された娘は2人の死をどう受け止めるのか。

性の行為は限りなく死に近い。
出会った頃の情熱を思い出さんと想い出の地を訪れ、夫の方はロマンティックな気分で妻の方は半ば義務的にしている最中に死を迎えるというのが、グロテスクだがそれでいて運命的でもある。

決して魅力的ではない2人である。しかし魅力的でないがゆえに非常にリアルなのである。
殺されたのは私だったかもしれない。
特筆するようなこともない私も、こんな風な死を迎えるかもしれない。

死んだらどうなるの?
神様が迎えに来てくれるのだろうか。あるいは死は終わりでしかなくただ朽ち果てていくだけなのだろうか。
そんな問いに作者はきっぱりと答える。死は死でしかなく放っておけば死体は腐敗し虫や魚に食われるのだ、と。

徹底的に感情を排した書き方に、こここれは意欲作すぎて私には無理かもしれないと思ったけれど、残された娘の物語があったので、どうにか救われた…。
私も作者同様無神論者ではあるのだけれど、それでも死は死でしかないとは思いたくなくて、次の生につながっていくと思いたいのだな、きっと…。