りつこの読書と落語メモ

読んだ本と行った落語のメモ

第七階層からの眺め

第七階層からの眺め

第七階層からの眺め

★★★★★

宇宙船を降りてシリウスで休暇を過ごしていた“ケプティン”はある日、ペットのトリブルを連れた婦人に出会い、ゆきずりの恋がいつしか…。チェーホフの傑作短篇をスター・トレック風にアレンジした「トリブルを連れた奥さん」をはじめ、子供向けゲームブックの形式を使って、人間の最後の一日をたどる「“アドベンチャーゲームブック”ルーブ・ゴールドバーグ・マシンである人間の魂」、宇宙から来た“実在”と島で暮らす孤独な女性の交流を綴る表題作「第七階層からの眺め」など、SF、ラブストーリー、コミック、ファンタジーの要素を駆使しながらジャンルの枠にとらわれることなく、多彩な手法で人間のいとなみを描ききった13の滋味あふれる物語。アメリカのイタロ・カルヴィーノと称され、『終わりの街の終わり』で絶賛を浴びた若手作家、待望の傑作短篇集。

すごく良かった!こんなに好みだとは思わなかった。感動!じーん…。
13の短編が収められているのだが、それぞれテイストが違って甲乙つけがたい。
一時期短編を読みすぎて「もう短編はいいかなぁ」なんて思っていたんだけど、短編ってこんなにも可能性を秘めていたんだね!
題名からSFSFした作品なのかなぁと少し恐れおののいていたんだけど、勇気を出して読んで良かった!ありがとうありがとう!

・「千羽のインコのざわめきで終わる物語」
そこに住むすべての人々に歌の才能がある街でただ一人いた口のきけない男。男は口がきけないだけで耳が聞こえないわけではなかったのだが、街の人たちはそのことを知らずにいた。
男は自宅でインコを飼うようになり、次々増えていくインコたちが住みやすいように家を改造し、インコたちも男の一挙一動を興味深く見守り真似して暮らしていたのだが…。

最初に収められたこの1作目でハートを鷲づかみされる。
なんだこの圧倒的な静けさと美しさと優しさと温かさと寂しさは。
この物語を語っているのは神様なのかしら?この世界を俯瞰して見ているようなまなざしがあって、それがとても心地良い。
数ページの短い物語なのだが、忘れられない一枚の絵を見せられたような衝撃があった。

・「第七階層からの眺め」
島に暮らす孤独な女性。マリーナの売店で地図やアイスクリームを売り、隣家の未亡人に頼まれて虫を追い払う。
かつては島を出て大学に通い本を読み輝ける未来があるかに見えたのだが、今は本を読むこともなく人と交わることもほとんどなく、時々聞こえる<実在>の声に耳をそばだてる。

彼女はすでに精神を病んでしまっているのか、あるいはまともすぎるほどまともなのかよくわからないのだが、彼女の寂しさが胸に迫ってくる。
題名にある第七階層とは、過去と現在との区別はなくそのためなにごとも真の意味では取り返しがつかなくなることはないのだという。
そこから見る眺めはもう今のように寂しくないの?
この表紙の絵がものすごくこの物語の空気をあらわしていてぐっとくる。

・「壁に貼られたガラスの魚の写真にまつわる物語」
ある家具職人が大学の講座を受け持つために、数ヶ月だけ自分の住んでいる町を離れて転借の契約をした家に移り住む。
この家を所有している夫婦は息子が大学1年になって家を出たばかりで、2人でイタリアを旅している。
家のあちこちに息子の写真が貼られていて、家具職人はその写真を何度となく見つめては、この家に住んでいる家族について想像をめぐらすのだが、実は写真の少年も家具職人を見つめ返していたのだ。

なんてことはない静かな物語なのだが、その家の匂いや空気までもが伝わってくるような不思議な力があって、まるで自分がその部屋で遠慮がちに数ヶ月を暮らしたような気持ちになる。なんだ、これは?

・「ホームビデオ」
家族向けテレビ番組を作っている「私」のもとに、ある日衝撃的なビデオが送られてくる。
それは放送できるような代物ではなかったのだが、あまりにもむき出しで面白くてスタッフたちは繰り返し見ては笑った。
そのビデオを送ってきたのはアン・ウィルソンと名乗る人物。
また次の週にもアン・ウィルソンからビデオが送られてくるのだが、またこの作品も愉快であると同時に不安も誘うもので、やはり放送はできない類のビデオであった。

いったいどういう目的でアン・ウィルソンはビデオを送ってくるのか?このビデオを撮っているのはどういう人物なのか?
気になった私はアン・ウィルソン探しに乗り出す。
そんなある日、ちょっとしたミスがきっかけで要のスタッフがクビになってしまい、苦い思いにとりつかれた私はあることを思いつく…。

他の作品とはテイストがまた違っていて、奇妙なところや不思議なところはなくてむしろとてもリアルでフツウな物語なのだが、ユーモアと温かさがあってとても好き。

とにかく全篇すべてに「ハズレ」がなく圧倒的な世界観があってすばらしかった!
他の作品もどんどん翻訳されてほしい!
まだ読んでいない「終わりの街の終わり」も是非読んでみたいと思う。