誰かが足りない
- 作者: 宮下奈都
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2011/10/19
- メディア: 単行本
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予約を取ることも難しい、評判のレストラン『ハライ』。10月31日午後6時に、たまたま一緒に店にいた客たちの、それぞれの物語。認知症の症状が出始めた老婦人、ビデオを撮っていないと部屋の外に出られない青年、人の失敗の匂いを感じてしまう女性など、その悩みと前に進もうとする気持ちとを、丹念にすくいとっていく。
どこからどこまでも好みだった。
読んでいる間、ものすごい多幸感に包まれて、この世界から離れたくない!と強く思った。いつまでもこの物語の中に留まっていたかった。
本を読んでいてこんな気持ちになるのはとても久しぶりだった。
去って行った恋人、先立っていった最愛の人、報われない仕事、見えない未来。人生は常に満たされることはなく、いつも何かが欠けていたり誰かが足りなかったりするけれど、一緒に美味しい料理を食べたいだれかがいれば。
大事なだれかはいなくなってしまっていても、記憶の中のあの人と一緒にあの店に行ってみよう、そんなふうに思えれば。
きっと大丈夫。
全てを取り戻すことはできなくても、隙間を埋めることはできる。
失敗しても絶望しなければ生きていける。
記憶をなくしても過去を全てをなくすわけじゃない。
宝物にしたいような一冊だった。ブラボー!